『天国にちがいない』のあらすじと概要
「D.I.」の名匠エリア・スレイマンが10年ぶりに長編映画のメガホンをとり、2019年・第72回カンヌ国際映画祭で特別賞と国際映画批評家連盟賞を受賞した作品。
『アイロニーに満ちたユーモアと詩情豊かなイマジネーション 現代のチャップリンと称せられる名匠エリア・スレイマン監督10年ぶりの最高傑作』という予告編・解説に誘われ観賞してきました。
スレイマン監督は新作映画の企画を売り込むため、故郷であるイスラエルのナザレからパリ、ニューヨークへと旅に出る。パリではおしゃれな人々やルーブル美術館、ビクトール広場、ノートルダム聖堂などの美しい街並みに見ほれ、ニューヨークでは映画学校やアラブ・フォーラムに登壇者として招かれる。友人である俳優ガエル・ガルシア・ベルナルの紹介で映画会社のプロデューサーと知り合うが、新作映画の企画は断られてしまいます。
行く先々で故郷とは全く違う世界を目の当たりにするスレイマン監督。そんな中、思いがけず故郷との類似点を発見することになります。
『天国にちがいない』のスタッフとキャスト
エリア・スレイマン監督・主演:「パレスチナ系イスラエル人」であり、イエスの故郷ナザレに生まれた。代表作『D.I.』(ディー・アイ)(09)では、自らの出生と同様のナザレに住むイスラエル国籍のパレスチナ人を演じ、熱狂的なファンを獲得。中東紛争やパレスチナ問題をテーマにしながらも、アイロニーに満ちたユーモアで世界に笑いの渦を巻き起こした。
そして俳優スレイマンが演じる主人公のキャラクターは、彼の自画像に近く、なんと新作映画の企画を持って世界を彷徨う映画監督の役となっています!
『天国にちがいない』のネタバレ感想
わたしはスレイマン監督の作品を今回初めて劇場で観賞しました。作品の中ではほとんどセリフが無く、音楽も全くないシーンも非常に多く、他の多くの音響効果の凄まじい映画世界とはかなり異なっていました。スレイマン監督が常にカメラに向かい、ぼんやりとした視線を向けています。何かを語り掛けている様ですが、ほとんどのシーンは無言です。勿論観客は監督の言いたい事は理解しているのですが、、、かなり面白い「仕掛け」の映画だと思います。監督『これは、一体どうなってるの? おかしいねぇ?』と、語り掛けて来る気持ちが十分に伝わってきます。
舞台はパレスチナの監督の故郷「ナザレ」の風景から始まります。パレスチナと聞いてもっと殺伐としたイメージがありましたが、平和な鬱蒼としたオリーブ・レモンの樹木に囲まれた閑静な住宅街なので驚きました。街中の風景カットシーンの積み重ねなのですが、一枚一枚の極上の風景シーンを見せられている思いがしました。確かにセリフも他の役者も殆んど無用に思えてきます。
スレイマンがナザレの自宅で穏やかにお茶を飲んでいると、物音が聞こえ、外を見ると自分の庭で勝手にレモンをもぎ取っている男がいます。男は「隣人よ、泥棒と思うな。ドアはノックした。誰も出てこなかったのだ」と言います。勝手に人の領地に入り我が物顔に振る舞うこの男は、きっとどこかの国の象徴なのかも知れません。挙句の果てに、木を剪定するは、散水するは自分の庭のレモンの樹であるかのように振る舞います。
延々と続くショートコントを見ている様な気になります。各シーン毎にそれぞれ監督の思いが込められているので、それを感じながらみるのも非常に楽しみではないでしょうか?人っ子一人いない街で撮影されたり、突如何両もの戦車が街の真ん中を進軍するシーンが出て来たり、パリではカフェの椅子に座り道を行き交う人を観察しているシーンもあります。パレスチナと180度異なるファッションナブルな女性の姿に目を引かれるシーンは印象的です。
ずっと『天国にちがいない』というテーマを頭に浮かべながら映像を見続けていると、なにやかや色々な問題はどこに起こっているものの、”生きていること自体がとても素晴らしいこと”と捉えました。
さて、皆さんはこの作品にどんな印象をもたれるでしょうか?
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