魂のゆくえのあらすじと概要
ニューヨークの小さな教会であるファースト・リフォームド教会(250年と歴史は古く、奴隷解放などの過去の貢献もあり、観光目的の訪問者も多い)で牧師を務めるエルンスト・トラー牧師(イーサン・フォーク)は、自身の考えを年報に掲載し記事にまとめてる事を毎晩の日課として取り組んでいた。
トラーは自身も従軍牧師としても活動していたが、同じく従軍牧師として出征していた息子のジョセフをイラクで戦死させてしまう。ジョセフに入隊を勧めたのはトラー自身であったことから、トラーの苦悶と自責の念は極めて強く、このことから夫婦は離婚してしまう。
ある切っ掛けから、トラーはメアリー(アマンダ・サイフライド)と出会う。メアリーはトラーに夫であり、環境保護論者であるマイケルと面談するように頼み込んできた。(マイケルは極端な環境保護論者であり、最近逮捕されたが、妻が妊娠中ということで、自宅に戻されていた)メアリーに中絶を勧めてくるのだという。トラーがその理由を問うと、マイケルは「この世界は気候変動によって過酷なものになってしまい、もう元には戻れない。そんな世界に子供を産み落としたくない」と答える。
ある日倉庫で探し物をしていると、メアリーは夫のものと思われる即席爆弾を車庫で発見し驚愕、その話を聞いたトラーはマイケルに事の子細を尋ねるようと待ち合わせ場所の公園に向かったトラーはそこでマイケルの遺体を発見した。ショットガンによる自殺を図ったのだ。
一方、教会では設立250周年を祝う式典の準備が進んでいた。その式典には市長と知事をはじめとする地元の名士たちが多数参列する予定だった。その中には教会の大口支援者である世界的に展開する大企業エドワード・バルクの名前もあった。バルクはアバンダント・ライフ(豊かな生命)教会というメガチャーチを経由して教会を後援していた。食事の席で、トラーは気候変動についてどう思うかとバルクに尋ねた。産業界との繋がりも深いバルクは非常に不愉快な顔になり、話を逸らそうとすることにトラー違和感を感じる様になる。
夫マイケルと面談したのはほんの僅かな時間だったにも拘わらず、彼の思想はトラーの信仰及び価値観を大きく変える切っ掛けとなった。胃がんであると診断されたトラーは、マイケルが果たせなかった爆弾テロを自らの手で引き起こそうという気持ちに変っていくが、、、
魂のゆくえのネタバレ感想
ストーリーとテーマについて
環境破壊を続ける大企業が教会支援の立役者(環境破壊企業から教会が間接的に献金を受けている事を知る)になっている問題点にスポットを当ています。聖書の言葉「大地を滅ぼすものには破滅を与えよ」などは、とらえ方次第ではかなり過激といえます。わたしはキリスト教徒ではないので、宗教と企業の利益問題については何ともコメントのしようがないが、本作品は相当重い環境破壊と教会の取り組みというテーマを本気で取り上げている。教会は見て見ぬ振りをしていると激しく批判している様です。
また、トラー牧師も戦争で息子を失い、自身は胃がんに冒され、酒に頼る生活を送るなどあまり順風満帆の生活を送っている様には見えませんが、メアリーの夫であるマイケルとの出会いで触発され、自分の本来の生き方を見出したのかもしれません。マイケルの果たせなかった「爆弾テロ」による「抵抗」を自ら実行しようと決意する点は余りに「短絡的」過ぎないかと思われます。自分の余命も少ないので、環境破壊の諸悪の根源の一角諸共、吹き飛ばしいしまえという考えには、同意は出来ません。
最後に、爆弾を仕掛けたベストを聖職衣装の下に纏い、教会に行く直前にメアリーも参列している事を目撃します。爆弾テロの決行を突如取り止めてしまうのも、感情的に理解できますが、ならばメアリー以外の参列者は巻き込んでしまっても良いと判断していたのかどうか?と別の疑問が沸いてきます。
演出や脚本について
全般的色調はダークトーンに抑えられ、進行のテンポも非常にゆったりとしている。トラー牧師の毎日、日課としている日誌を書くシーンは彼が毎晩内省する内容を綴り込むことで彼の毎日の悩みが分かってくる。
大変深い内容のテーマであるにもかかわらず、展開されるストーリーは極めて単純です。物語性として注目されるのはやはり夫が自殺していまうメアリーとの出会いであることは間違いありません。しかしながら、メアリーの出現のお蔭で、トラー牧師は爆弾テロを思いとどまるものの、結局最後に自分だけで洗剤を大量に飲み自殺を図ってします最期は何とも後味の悪さだけが残りました。実は、それこそがシュレイダー監督が意図したことなのかも知れません。本作を見終わった後の我々の行動はどうあるべきかが、問われている様な気がします。なんらかの行動を観客ひとりひとりに求めている、極めて社会性の高い作品だと思いました。
キャラクターとキャストについて
監督のポール・シュナイダーは『タクシードライバー』『レイジング・ブル』などの傑作を手がけた脚本家として知られるハリウッドの巨匠、シュレイダー監督が、構想50年の末に完成させたのが本作品『魂のゆくえ』シュレイダー監督は、自らの仕事の中で初めて特定の人物を念頭におきながら脚本を書いたのが、主演イーサン・ホークだったそうです。「通常、私は特定の俳優のために脚本を書くことはしない。しかし、この脚本を半分ほど書いたところで、イーサン・ホークのイメージが頭に浮かんだ。“この役はイーサンにこそふさわしい”そう感じて以来、彼のイメージが私の脳裏に焼き付いていた。」と、そして、イーサンは“この脚本に、瞬時に共感しました。この役を演じるために、これまでの人生があったように感じます”と言ってくれたんだ」と雑誌のインタビューでシュレイダー監督は語っています。
主人公のトラー牧師を熱演するのは、実力派俳優イーサン・ホーク。ヴェネチア国際映画祭でお披露目された本作は、ポール・シュレイダー監督の最高傑作と評され、アカデミー賞脚本賞にノミネートされるとともに、ライバルを押しのけて、全米約50の批評家協会賞(男優賞)で昨年度最高となる34冠を獲得する。
惜しくもアカデミー賞を逃しましたが、米ロサンゼルス・タイムズの映画評では“この役を演じるために生まれてきた”と言わしめた程絶賛されています。
イーサンの家族は元々、バプテスト派の敬虔な信徒で、祖母は彼を聖職者にしたがったのだという。実際に、ケンタッキー州の男子修道院でも生活を送ったことがあり、本来、聖職者の道を歩んでいた可能性も十分あり得たそうだ。
しかし、最終的にイーサンは聖職者ではなく、アーティストの道を選びました。最初は作家を目指し、高校で演じる事に夢中になってからは俳優として着実にキャリアを積む。イーサンは祖母に「僕は聖職者にはなれなかったけど、きっと俳優として聖職者を演じることになるよ」と説き伏せ、30年後、奇しくもそれは現実となました。祖母がみたら驚くような、少し過激過ぎる聖職者ではありますが、、、
アマンダ・サイフライド 左右の目が離れた猫顔と悪口!?を言われることもあるが、シュレイダー監督のお気に入りらしい。「タクシードライバー」に出てくる少女アイリス(ジョディ―・ホスター)に似ている。彼女は「ミーン・ガールズ」(04)で映画に初出演した後、人気TVシリーズ「ヴェロニカ・マーズ」や「ビッグ・ラブ」などに出演。ABBAのヒット曲で構成されたブロードウェイ・ミュージカルを映画化した「マンマ・ミーア!」(08)が大ヒット。以降、恋愛映画「親愛なるきみへ」や「ジュリエットからの手紙」(10)、SFサスペンス「TIME タらしい。イム」(11)など主演映画が相次ぐ。大ヒットミュージカル映画「レ・ミゼラブル」(12)では、主人公ジャン・バルジャンに育てられた少女コゼット役で美声を披露するなど大活躍をしている。
まとめ
「タクシー・ドライバー」の脚本を手掛けたポール・シュライダー監督、構想50年の最高傑作という触れ込みながら、宗教性・社会性の問題をテーマとしていることから、日本で欧米ほど高い評価を受けたかは疑問。イーサン・ホークもアマンダ・サイフライドも大好きな俳優ではあるが、次回作も期待したい!
わたしの評価は84点。
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