「フロリダ・プロジェクト真夏の魔法」のあらましと概要
全編iPhoneで撮影した映画「タンジェリン」で高評価を受けたショーン・ベイカー監督が、カラフルな風景の広がるフロリダディズニーワールドに隣接する安モーテルを舞台に、貧困層の人々の日常を6歳の少女の視点から描いたヒューマンドラマの傑作。
映画批評からは現代アメリカが貧困層の抱える問題を正面から取り上げ観客に投げかけてくる、否が応でも問題の根深さに気が付かされる点を余すところなく表現している本作品が現在のアメリカ映画を代表する重要な作品となったとの指摘する声も非常に多いです。
定住する家を失った6歳の少女ムーニーとふたり暮らしのシングルマザーヘイリーは、フロリダ・ディズニーワールドのすぐ側にあるモーテル「マジック・キャッスル」でその日暮らしの生活を送っています。周囲の大人たちの大半も厳しい現実に苦しんでいたが、ムーニーは同じくモーテルで暮らす、ほぼ似たリよったりの境遇の多くの子どもたちとともに活発で自由なわんぱく盛りの日々を楽しく過ごしていました。管理人ボビーはそんな子どもたちに対して厳しくしながらも、温かく見守っていました。
主人公ムーニー役にはフロリダ出身の子役ブルックリン・キンバリー・プリンス、母親ヘイリー役にはベイカー監督自らがInstagramで発掘した新人ブリア・ビネイトを抜擢。管理人ボビー役をウィレム・デフォーが渋い役柄を好演し、第90回アカデミー助演男優賞にノミネートされています。
「フロリダ・プロジェクト真夏の魔法」ネタバレ感想
ストーリーとテーマについて
この映画は何の飾りもなく、底辺に生きる人々の生活を描き出しているが、終始一貫して暗さがあまりない。ディズニーワールドがあるフロリダ・オーランドという土地が醸し出している雰囲気が溢れているからかもしれない。真っ青な空と純白の雲が広がる。日々の食費や家賃に事欠く生活を強いられながら、この親子も、近所の同じような境遇の人々も総じて明るい。それに木賃宿の外装がパステルカラーで妙に明るくリゾート気分にさせられる。まだ、実際は行ったことはないけれどキューバの雰囲気にも似ているような感じだ。街ぐるみでディズニーリゾートの気分を盛り上げる為の工夫を凝らしているのだろうが、リゾートの周辺の底辺で生きる人の苦労は大変だ。
映像は徹底的に子供の視線から描かれており、子供は自由奔放に周りの世界を飛び回っている。遊びが昂じて、空き家の暖炉に火をつけてしまい、大火事を起こすが「放火犯」としての自覚は一切無い。対する親も親で精神的には子供同然で、子供が体だけは大人になったようなもの。子供と一緒に生活はしているものの、子育てに責任を感じている様子も一切ない。このあたりを厳しい視線では親としての「資格」「自覚」に欠けていると堅苦しく言う人は多い筈だ。しかし、主人公シングルマザームーニーは10代で子供も産み、いまだ20代そこそこ、親として自立し、精神的に充実するにはまだ時間が掛かるのは否めないのではないか。そこへの社会からの救いの手は無い方が問題を含んでいる。
親子でホームレスに近いぎりぎりの生活を強のいられているが、このような極限の生活をしている人はこの親子の周囲に恐ろしいほどたくさんいることに改めて驚く。ストリッパーとして稼ぐ手段もなくなり、ホテル玄関での違法の香水販売を続けていたが、とうとう売春にまで手を出さざるを得なくなった様だ。生きていく為にはそうするしかないことは誰しも理解できるところ、、、
そこに本編唯一の親子二人をいろいろ口を挟みながらも優しい目で見守り続けていたホテルの管理人ボビーが、とうとうしびれを切らせ、部屋からの退去を言い出す。一方、モーテルの住民の誰かからの告げ口で児童家庭局の職員の訪問を受け、母娘は別居を余儀なくされてしまうのか、、、ラストシーンは幼い友人とふたりで手をつなぎ合いディズニーワールドに駆け込み幕となるが、そこに彼女らの「自由」があるのだろうか…
キャラクターとキャストについて
ショーン・ベイカー監督:3台のiPhoneのみで撮影したことで話題を呼んだ「タンジェリン」(15)。続く本作品「ザ・フロリダ・プロジェクト(原題)」(17)も高く評価され、ウィレム・デフォーがゴールデングローブ賞などの助演男優賞に軒並みノミネートされるなど広く注目を浴びた。監督作品では、製作、監督、脚本、撮影、編集をほぼ兼ねている。
ウィレム・デフォー(管理人ボビー役):「プラトーン」(86)でアカデミー助演男優賞に初ノミネート。「シャドウ・オブ・ヴァンパイア」(00)で2度目のアカデミー助演男優賞候補となった。現在に至るまで、多岐にわたるジャンルで個性派俳優として活躍。
ブルックリン・プリンス(娘ムーニー役):圧倒的な演技力と、子どもの背丈に近い位置にカメラを合わせる全編に及ぶ演出によって、観客は完璧にムーニーの世界に引き込まれずにはいられない。
ブリア・ヴィネイト(母親ヘイリー役):地そのままではないかと思われた。
まとめ
本作品冒頭シーンからかなり長い時間子供の視線で自宅であるモーテルの周囲を自由に遊び回っているシーンが延々と続き、何という映画なんだという気持ちになっていっていたところが、徐々にシングルマザーの生きる厳しさも、したたかない生き様も表現されていき、いつの間にか母娘の応援団にされていた。
悲壮感は微塵も無いが、表現されている貧困層の問題は相当にどうしようもなく、深刻なことがひしひしと伝わって来る。
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