なぜ、この本を読んだのか?
改めて問われて見ると東南アジア諸国の歴史をどれだけ勉強したことがあるのだろう? 世界史の教科書では中国とヨーロッパが中心で、イスラムとインドがその次のボリュームで取り上げられている。しかしながら、東南アジアの歴史は詳細を勉強する機会はなかったのではないか? 第二次世界大戦でどのような戦いがあったのかは戦記ものでも読まない限り詳しくは分からない。調度いい本が出版されていたので読んでみました。結構分かり易い面白い本だったので是非お勧めします。
この本を読んだ感想
著者が言われる様に誤解しているというか、全く知らなかった事ばかりのご指摘に自分の東南アジアに対する認識が余りに貧弱だったことに改めて愕然とした。会社に入社して直ぐ東南アジア向けビジネスに携わっており、多くの東南アジアの顧客、現地スタッフとの付き合いもありました。しかしながら、本書で指摘されている様な近現代史に関しては余りに無知だったことに気が付くのが遅かったし、知らなくても商売は出来てしまった事が恐ろしい…
初めて聞く歴史の内容が多いのですが、東南アジア諸国はアジア大陸で中国と地続きであることから、中国の影響を昔から受けており、現在も中華文化圏を形成しているメンバーであり、各国はいずれも中国とは非常に仲が良いと考えていました。しかしながら、それが大きな間違いである事に気が付きました。特にベトナムはアメリカとのベトナム戦争以降の中越戦争で戦争を繰り広げた経験もあり、中国を徹底的に嫌っているという話です。ベトナム料理も何となく中華風の料理も多く、また、言葉の元を辿れば文化の根っこは中国起源と思われますが、(ベトナム語の「ありがとう」は感恩≪中国語発音=「ガンオン」という具合に中国語読みでした)、やはり民族としては中華民族とはまったく別だと再認識しました。それに現在東南アジアの国には珍しく、以前存在していた華僑が現在はベトナムには住んでいなということでした。この事実についても20年も昔にホーチミン市に一度しか訪問したことが無かったので、全く認識できていませんでした。
ごく最近の情勢では、強大になり始めた中国に対抗する為、南沙諸島などで中国と対立するベトナムは日本と一緒に中国と戦おうという意志をほのめかしている様です。
また、韓国についても言及されており、清朝以前もそうですが、中国に対しては全くの隷属外交の歴史しかないと指摘しています。常に強いものに付き従う事大主義に徹することでしか生きる道が無かったと少し気の毒な表現が何度も表現されています。
第二次世界大戦時にタイは中立国だったと聞いていましたが、本書の説明ではタイは日本との同盟国であり、日本の協力者であったと。タイは国益を考えて第二次世界大戦では英米に参戦しましたが、敗戦国にはなっていないしたたかな外交手腕があったそうです。微笑みの国の裏側には日本人をも手玉に取るような、タイ一流の生き方があるようです。
ミヤンマーについては、人口の半分以上が少数民族で構成されており、その民族数は
大きく分けて8、部族数にいたっては135とかなり複雑な情勢です。バングラデッシュとの国境付近のイスラム系の少数民族ロヒンギャは人口100万人でといわれ、もともとはバングラデッシュからの難民らしいですが、その歴史は不詳とのことです。これほど多い民族、部族とは知りませんでした。宗教も絡み合い、且つ中国の影もちらつき複雑な国情です。この国(旧名ビルマ)については、第二次世界大戦時の「インパール作戦」という日本軍が敗北を喫し、山地のジャングルを食料も無く敗走する日本兵に現地住民が親切にお粥を与えたというエピソードが紹介されています。インパール作戦は戦いでの死者数より、敗走の際、餓死した兵士の数の方が多かったという滅茶苦茶な作戦計画で多数の死者を出しています。
シンガポール、マレーシアは親日的と思っていましたが、やはり華僑の過去の歴史の中では、日本軍は数千人の華僑を、大陸の蒋介石政府を支援している事を理由(実際はそういった事実は無かったとの事ですが)に惨殺したそうです。現在40歳以上の華僑は当時の歴史を祖父母からよく聞かされており、国自体は親日的でも、華僑自身は本来親日ではなく、付き合う際は要注意と指摘しています。
フィリピンでも同じように、第二次大戦終戦間近、既に日本軍は制海権、制空権を完全にアメリカに握られており、一切補給経路を立たれ50万人もの日本軍が孤立していました。日本軍は生きる為に、抵抗する現地の住民から食物を奪ったそうです。フィリピン人犠牲者だけでも100万人にも及ぶ凄惨な歴史があります。正直ルソン島の戦いがどんなものだったのか今日まで全く知りませんでした。沖縄戦もそうですが、制空権、制海権を奪われた軍隊に対してマッカーサーが指揮する米軍の攻撃は全く意味の無い戦いです。巻き添えを食った死んだフィリピン人100万人に詫びる言葉もありません。
この一冊で東南アジアの歴史、経済、政治、文化などなど本当に余すことなく学ぶことが出来ます。おすすめの一冊です。
世間の一般的な意見はどんなものがあるか?
一般読者の書評を参考までに引用させて頂きます。
とても情報量の多い本です。戦時中に日本人が東南アジアに進出したことが独立につながったことは事実ですが、もろ手を挙げて日本に感謝している訳ではないようです。各国の人の奥底に流れる複雑な感情をはじめて知りました。日本では良質な東南アジアの情報が少ない中、長年東南アジアに関わってきた著者の分析や知識には目を見張りました。東南アジアの人と関わっていく上で正しい歴史認識はとても重要と感じました。
今まであまり興味を持って来なかった東南アジアの歴史や現在の経済状態がよく分かる本です。人口動態、食料生産、大雑把な歴史、日本への感情などの観点から、今後、日本がどのように東南アジア諸国に接したら良いかが明示されています。
同じ作者のおすすめの本はあるか?
著書にベストセラー『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』や『習近平のデジタル文化革命』(いずれも講談社+α新書)、『「食糧危機」をあおってはいけない』(文藝春秋)、『「作りすぎ」が日本の農業をダメにする』(日本経済新聞出版社)等多数。
まとめ
主題からは少しそれますが、日本は輸出型貿易立国であるという言い方は間違えであるという事を著者は本書で指摘されていました。統計数値的(輸出の占める割合はGDPの2割以下)に見ると確かに日本の産業は輸出よりも圧倒的多数を占める国内需要を賄う産業に負うところが大きく、貿易立国の名北に相応しくないというのが正しいような気がしてきた。
このように、何点か今まで当たり前のことの様に惰性で考えていたことが実は違うんだという指摘が多々あり結構勉強になります。
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