『バビロン(1980)』のあらすじ概要
【ネタバレ有り】
人種差別にさらされながらも音楽に魂をぶつける若者たちの姿を描いたレゲエムービー。
1980年代初期のイギリス・サウスロンドンに住む青年ブルーは、昼間は自動車整備士として働き、夜は地元のクラブでDJとして活動しています。人種差別主義者からは日々激しい嫌がらせを受け続けていたが、ブルーと仲間たちにとって力強いレゲエのリズムこそがアイデンティティであり、音楽活動の拠点であるガレージはかけがえのない「楽園」でした。サウンドシステム競技を勝ち抜いた彼らは強敵ジャー・シャカとの決勝戦を前に心踊らせていますが、そんな矢先、ガレージが何者かによって破壊されてしまい、ブルーはついに怒りを爆発させてしまいます。
レゲエバンド「アスワド」のオリジナルメンバーであるブリンズリー・フォードが主演を務め、レゲエミュージシャンのジャー・シャカが本人役で出演。衝撃的な内容から世界的に公開が見送られてましたが、ようやく2019年にニューヨークでプレミア上映されて大きな反響を呼びました。日本では2022年10月に劇場公開されました。
サウンドシステム(※ジャマイカの音楽文化である「移動式のデカいスピーカー」の事)カルチャーにフォーカスしながらもメッセージをしっかり伝えている映画となっています。
『バビロン』とは、元々、メソポタミア地方にあった古代都市の名称でした。しかし、パトワ語(ジャマイカの言葉)の中でのバビロンは、人が集まって形成される権力・悪・罪といった悪しきものの集合体・場所のことで、国家やイデオロギー・体制や都市などの国家権力といった思想に近い意味があります。
1980年製作/94分/イギリス・イタリア合作
原題:Babylon
『バビロン(1980)』のスタッフとキャストについて
フランコ・ロッソ監督:イタリア生まれのイギリスを拠点とする映画プロデューサー兼監督。黒人の英国文化についての映画を作ることで知られている。ケンローチの1969年の映画「ケス」のアシスタントを務めています。本作で、1981年イブニングスタンダード英国映画賞の最も有望な映画製作者賞を受賞しています。
ブリンズリー・フォード(主演のブルーに一世を風靡したレゲエ・グループ、アスワドのメンバー):
カール・ハウマン:
『バビロン(1980)』のネタバレ感想・見どころ
【ネタバレ有り】
レゲエと聞いて「ボブ・マーリー」の名前しか浮かばないレゲエ音痴の自分にも映画が訴え掛けて来るものは感じる事が出来ました。
レゲエ・ムービーとは言え、全編レゲエ音楽ばかりで構成されている音楽専門映画ではなく、しっかりと「社会派」映画としてストーリー展開を愉しむ事が出来ました。1980年代初期の英国経済が低迷していた時代で、本作舞台となるサウス・ロンドン地区の場末の貸倉庫を根城(音楽関連の資機材置き場兼メンバーが夜な夜な屯すアジト)としています。主人公ブルーは両親と年下の弟と暮らしています。貸倉庫周辺の情景が何度も映し出されますが、米西部劇の荒くれカウボーイが飛び出してきそうな荒涼とした地域でした。
ジャマイカ2世の青年たちは正業についてはいるものの、些細な理由でたちまち失職させられるような最底辺の仕事したり、ある者は窃盗、恐喝などを繰り返し生計を立てている様子がリアルに描かれていました。恐らくこの辺の描写が問題となり、40年間も映画公開が封印されてきたのかも知れません…更に、ある日ブルーが不審な車(実は刑事が乗っていた)に執拗に追尾された為、走って逃げ出します。結局何も悪事をしている訳では無かったのですが、走って逃げただけで殴る蹴るの暴行を受けた挙句、理不尽にも逮捕されてしまうという描写もありました。
貸倉庫では大音量の音楽をまき散らしていた為、当然近隣住民からの苦情が絶えず、彼らと白人との対立感情も一触即発の険悪な状況となっていきます。これは、本編ラストでは凄惨な事件へと発展してしまいます。
さて、肝心のレゲエ音楽はどうなんだと質問が飛んでくるのも当然です。しかし、冒頭申し上げた通り、レゲエ=ボブ・マーリーの理解しかない為、映画内のレゲエについては正直『素晴らしかった。迫力があった』としか言えません。80年代の記憶に残るボブ・マーリーのレゲエのテンポはかなりゆっくり静かな音楽と理解していました。しかし、本編でむる80年代のサウスロンドンのレゲエは強烈にアグレッシブで、魂の叫びとも言えるような迫力を感じました。また、「サウンド・システム」による大音量(馬鹿でかいスピーカーを会場へ毎回トラックで運びこむ…)、<ヒューマントラストシネマ渋谷の映画館の音響システムも良く対応していたのではないかと感心しました>等々、従来のレゲエのイメージとまったく違っていました。
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