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おすすめ本|「歴史の教訓」歴史の教訓―「失敗の本質」と国家戦略―兼原信克著(新潮新書)シビリアンコントロールが重要、海軍・陸軍の暴走は許さない!

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おすすめ本の紹介
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 なぜ、「歴史の教訓」を読んだのか?

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最近、5.15事件という本を読んで、昭和の犬養毅首相暗殺という殺伐とした世相の中、如何に軍部の暴走が始まったかという事に強い関心を持っていました。また、以前『失敗の本質』という書も読んで、詳細な内容的までは余り定かではありませんが、戦術的な作戦の失敗、組織論の誤りを指摘している内容ではなかったかと思いますが、本書は根本的に異なり、国家戦略として『統帥権の独立』こそが日本の誤りと指摘していました。わずか200ページ余りの内容ではあるものの、ある部分は核心的な指摘もあり、非常に分かり易く明解で、学ぶべき点も多々ありました。是非、手に取られ、読まれることをお勧めします。

一方、著者流の考え方のある部分については、一般的書評などでも手厳しく指摘されている意見もありますので、そちらも機会があれば御覧いただき、ご自身で評価されることをお勧めします。

 五・一五事件他最近の感想投稿記事はこちら:

おすすめの一冊 「五・一五事件」 海軍青年将校たちの昭和維新 小山俊樹著

知的好奇心 おすすめの一冊「兵器を買わされる日本」 東京新聞社会部著 

内戦と和平 現代戦争をどう終わらせるか 東大作著  

 

 「歴史の教訓」を読んだあらすじ、感想

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「歴史の教訓」兼原信克氏の著作を読んで、明治維新から昭和の戦争に掛けての歴史の動きがかなり明確になった様な気がする。本書表紙帯にも明言されている通り『統帥権の独立』という愚策が日本帝国陸軍、海軍を中心に戦争への道を突き進ませたという事が分かった。また、『統帥権の独立』を認めたのは帝国議会であるという事も明らかになった。もはや、日本の軍隊は全くシビリアンコントロールが効かないどころか、戦前・戦中の軍隊は天皇の開戦には反対という意志を無視して開戦を選択したという。軍隊の暴走をもはや誰も止めることは出来なかったという状態は恐ろしい。ブレーキの無い自動車に乗った様なものだろう。

そもそも明治期の軍隊創設にあたり、明治政府はドイツ式軍隊を見習い、ドイツから教育者を招聘したところ、当時のプロシアは優秀な一級の軍事指導者はオスマントルコ軍の教育に当たらせた為、下級の人材を日本軍の教育に派遣してきたとの記述がされていました。帝国軍隊は戦術には優れているものの、戦略的には劣る面があったと指摘しています。著者は外務省入省の元外交官であり、軍事よりも外交こそ重要であるという立場を当然貫かれています。常識的に判断しても軍人に一国の政治を任せきってしまったところに大きな失敗の原因があることは明らかだと思いました。軍人は戦争をする事が仕事なので、道具とはなるものの使い方を考える人とは別である事が望ましいと思います。

まだまだ私も勉強不足な点は多いのですが、本書では日本が真珠湾攻撃を仕掛け対米開戦を仕掛ける以前に、中国大陸では戦争状態が膠着状態となっていました。その時までに、圧倒的に近代的な武装で凌駕する日本軍は中国軍の相手では無かったにもかかわらず、既に20数万人の将兵を犠牲にしていたそうです。また、当時の仮想敵国はソ連軍であり、満州の国境地域に大規模軍隊を張り付けている状態にありながら、日本軍はヨーロッパ戦線で英仏蘭がドイツヒトラーに手を焼いていると見ると、火事場泥棒的に中国南方の東南アジア、インドシナへの進駐を開始し、戦略的には不味い戦力の分散を行ったと指摘しています。

戦前アメリカは日本に対して原油の禁止という政策を推し進めますが、これは外交手段の一策で日本側が折れ、対中侵略を踏み止まり撤退する等、外交対応にはいくつかの選択肢があったはずなのにも関わらず、いきなり真珠湾での先制攻撃に出られてアメリカは驚いたと解説されています。この部分は他の書では、日本が開戦に踏み切らざるを得ないようなABCD包囲網、ハルノートの提案等々で日本はグイグイと追いつめられたという解釈もありますが、本書では外交的に平和的な解決方法はまだ残されていたにもかかわらず、軍部主導で開戦に舵を取ってしまったと説きます。

明治以来のボタンの掛け違いで、昭和初期の敗戦を迎えるという事は簡単ですが、多くの日本人が明治維新以来の歴史の歩みを正しく学び直し、同じような過ちを二度と繰り返さない事がより重要であると考えています。その為には大変参考になる分かり易い書だと思いました。

世間の一般的な意見はどんなものがあるのか?

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書評一部抜粋させて頂きます。やはり、賛否両論ですが、やはり、長期安倍政権かでの官邸外交舞台裏の立役者だったという立場が多少気掛かりではあります。

【外交は常に連立方程式である。全体を見る力がない国は滅びる】(文中より引用)・・・・・「歴史の大きな流れをつかむ」という大きな視点から、あるべき国家安全保障戦略、そして近代日本が抱え込んだ統帥権の問題までが一本の糸でスッと連なっている様子がよくわかります。歴史一般の作品としても楽しめますが、本書を通して第二次安倍政権以降の外交がどのような方向性を志向していたかがなんとなく透けて見えたのも興味深かった…

第二次安倍政権の大きな成果の一つが国家安全保障会議、国家安全保障局を創設したことだと思っている。その国家安全保障局次長を務めた兼原信克さんが、国家戦略という観点から明治以降の近現代史を描いた本で、実に勉強になった。

日露戦争、第一次世界大戦、満洲事変、シナ事変、そして大東亜戦争に関して、国際法的に正しかったのかどうか、国益の観点からよかったのかどうか、ということではなく、国家戦略の観点から見たときにどのように評価されるべきなのか、ということについて意見が述べられていて、考えさせられる

同じ作者のおすすめの本はあるか?

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戦略外交原論』日本経済新聞出版社、2011年、興味はありますが、まだ読んでいません。

最期に

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最終章に今後の日本の外交戦略については、アジア・インド地域での連帯を強化していくことを主張されていますが、具体的な構想は残念ながら指摘がありません。この部分の具体化の一部でも聞くことが出来ればと強く思いました。戦後は米国依存一辺倒の日米安保体制で長期間の平和を謳歌してきましたが、中国の台頭もあり、より一層国家戦略の重要性は増して来るものと思われます。米国依存を強めるのか、中国と組むのか、或は東南アジア・インド地域の取りまとめ役のリーダーシップを取っていくのか、態度を明確にしていくべき時期ではないでしょうか。

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