「ワイルドサイドをほっつき歩け」のあらすじ・概要
イギリスでの生活20年超の日本人が描くイギリス労働者階級のリアルな生活、EU離脱、競争激化社会、緊縮財政、完全無料な医療保険制度などの大問題に立ち上がり、人生という長い旅路を行く中高年への祝福に満ちたエッセイ21編。とにかくハチャメチャで物凄く元気な人が多い事に驚きます。日本人とは何かが違うことに気づかされるかもしれません。第2章は著者による、現代英国の世代、階級、酒事情ついての解説編となっている。
2019年に出版された「ほくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」という著作が大変面白かったので、新作が発表され早速読んでみたものです。ブレイディ―みかこさんの勢いは止まらず、一気に読ませて頂きました。こんなイギリスなら是非住んでみたいと思いました…
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の感想投稿記事はこちら:
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 書評 (著者ブレイディみかこ)
「ワイルドサイドをほっつき歩け」を読んだ感想
本書に取り上げられてるイギリスのおっさんとは50-60才台のイギリス労働者階級の一般的なおっさんらしい。著者ブレイディみかこさんの連れ(ご主人)と同世代でイギリスの町にはその仲間がたくさんいて非常に個性的、幼い頃からの仲間として一緒に大きくなった感じで仲が良く、家族ぐるみで交流があり、日本の社会よりも一層付き合いの密度の濃さを感じられます。もっとも日本では下町に行けばまだまだ濃い隣近所との付き合いをしている地域も当然あると思いますが、わたし自身の経験している下町人情は急速な都市開発が進み一方、伝統的な地域ぐるみの付き合いは薄くなってきてしまっているという印象を受けています。
みかこさんの周囲のおっさんは元気者揃いという印象です。20-30歳の差のある”彼女”と付き合っている人もいたりして、また、ベトナムから若い彼女を呼び寄せ、最期を看取らせることまでやりのけるおっさんがいることには少々驚きました。
ブレイディみかこさんは20年以上イギリスの労働者階級の仲間の中で暮し、かれらと日々接することでイギリスの実情を良く理解されていることが良く分かります。わたしの経験した海外経験は中国・台湾ですが、特に中国の場合は現地住民のコミュニティーに分け入って生活するという場面はありません。一般的には駐在員仲間の暮す居住エリア、日本人学校との限定された社会なので、海外に暮らしても小さな特殊な「日本人村」の中で暮す様なものだったと思います。この点、話を聞く限りイギリスはじめヨーロッパ、アメリカ等先進国の駐在員の生活は、現地の社会に溶け込む必要があり、そこでの経験は人生を豊かなものにしてくれるのではないかと感じました。
イギリスのEU離脱問題がたびたび本書のなかでも話題になっていました。多くの国民はこの問題の核心的な問題を議論した末に離脱するという国民党投票で票を投じた訳ではないようです。現行の無料で受けれれる医療制度を維持する為にはEU離脱が不可欠などというデマ情報が広がり、無料の医療制度が亡くなっては困る。それでは離脱に票を入れようという機運が高まった様でした。さらに、多くの国民は、離脱の結果どうなるとそれ程深く考えておらず、今まで何とかやって来たので何とかなるだろうレベルの考えしか持っていないという様子が本書に開示されています。
社会派バリバリで数多くの衝撃的な告発映画を世に送り出しているケン・ローチ監督のよく見ていますが、映画には労働者階級の人々が理不尽なイギリスの制度の中で、苦しみ、もがきながら生きていく様子をリアルに描いていますが、その話を本書でも同じような事を垣間見ることが出来ます。日本人という多少はバイアスの掛かった見方もあるので、少し注意はする必要があるかもしれませんが、ブレイディ―みかこさんがイギリスで暮し、本書を書いてくれなければ絶対知ることの出来なかったイギリス労働者階級の生活、庶民の喜怒哀楽などが良く分かるエッセイだと感じました。そういった意味でかなり貴重な本だと思います。
一般的な読者の意見はどんなものがあるか?
一般読者の感想を2,3引用させて頂きます。
「あとがき」にあるように、前著『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の中心は「青竹のようなフレッシュな少年たち」だったのに対し、本書は「人生の苦汁をたっぷり吸い過ぎてメンマのようになったおっさんたち」が中心である。メインになるのは著者の「連合い」やその友達、そして「ブライトンやロンドン周辺の人たちの、つまりイングランド南部」の労働者だ。
イギリスのおっさんの生態学。実に、見事に、時代に合わせて、浮かび上がらせている。よくも、悪くも ベビーブーマー世代のやるせなさ、したたかさが、愛おしい。ここで言われている「労働者」「労働者階級」という言葉が、日本では死語になっている。イギリス人の60%が、労働者階級だと思っている驚き。
労働党と保守党という二つの政党があることで、イギリスの選択は変わってくる。現在のイギリスの混乱は、ブレグジットによって、はじまる。労働者階級は、ブレグジットに賛成しているのだが、そのことで、世代間の争いが始まる。
同じ作者の他の著作作品にはどんなものがあるか?
『花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION』(ちくま文庫)、『アナキズム・イン・ザ・UK』(Pヴァイン)、『ヨーロッパ・コーリング――地べたから のポリティカル・レポート』(岩波書店)、『 THIS IS JAPAN ――英国保育士が見た日本』(新潮文庫)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『労働者階級の反乱――地べたから見た英国EU離脱』(光文社新書)、『女たちのテロル』(岩波書店)など。
まだ、読んでいないので、時間を見つけ読んでみて、又報告出来ればと思います。
最後に
今回も収穫は大きかった、外国の実情をここまで詳細に立ち入って紹介された本を読んだ事は余りなかった。探せば、いくらだもあるのかもしれませんが、今まで触れ合う切っ掛けがありませんでした。前作「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」本屋大賞にノミネートされたいたのを切っ掛けに読むことが出来、ブレイディ―みかこさんを知ることが出来ました。本屋大賞にノミネートされていなければ、読まなかったかも知れません。人との出会いも本との出会いも、ひょっとした切っ掛けですね。この縁を大切にしたいものです。
それと若い頃はパブに入り浸っていたおっさん達も現在では、スポーツジムに通い始め健康に気を使い始めているとの話を聞いて、時代も随分変わったと実感しました。
コメント