『ロゼッタ』のあらすじと概要
ベルギーの映画監督リュック&ジャン=ピエール・ダルデンヌ兄弟が、どん底の生活から抜け出そうともがく少女の日常を手持ちカメラによるリアルな映像で描き、カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールと主演女優賞をW受賞した人間ドラマ。
また、本作は公開当時、社会現象を巻き起こし、本国ベルギーでは「ロゼッタ・プラン」(ロゼッタ法)という青少年雇用のための負担を軽減する法律が成立されたそうです。「映画が現実を変えた」好例のひとつとなるほどの影響力のあった映画です。
酒びたりの母親と二人で林の中のキャンプ場にあるトレーラーハウスで暮らす少女ロゼッタは、ある日突然、何の理由もなく工場での仕事をクビになってしまい、新しい仕事を探しはじめます。しかし、なかなか新しい職につくことが叶いません。そんなロゼッタに、ワッフルスタンドで働く青年リケが、優しい心遣いで援助の手を差し伸べてくれるのですが……。
全編ドキュメンター映画のようにハンディーカメラを駆使して、主人公に接近して追い続けます。一切の装飾や感傷を抜きにして映像化され、ありのままのどん底生活を”実体験”するような印象を受けます。物凄い衝撃に襲われる事は間違いありません。
本作品のなかでロゼッタは、母親と同じような非人道的な存在になっても仕事を得るか、社会から抹殺されて無になるかの残酷な二者択一を迫られることになります。
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『ロゼッタ』のスタッフとキャストについて
リュック・ダルデンヌ、ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督:ベルギー出身の映画監督。常に貧困層の若者を主人公に、現代社会の抱える問題を見つめてきました。2人の作品は手持ちカメラで人物を捉え、音楽も過度の装飾もなく、あたかもドキュメンタリーのように対象に迫ってきます。「私たちは“身体がそこにあるようにすること”に興味があるのです。私たちは演技によっても、衣裳や音楽、照明によっても、そうした効果をもたらそうとは思っていません。人物たちが“人形”ではなく“個人”として“存在”することが重要なのです」と映画雑誌インタビューで語っています。
2014年、マリオン・コティヤールを起用した『サンドラの週末』が第67回カンヌ国際映画祭に出品されましたが、この映画では自身初の無冠に終わりました。しかし、主演のマリオン・コティヤールの演技は大絶賛されました。感想投稿記事はこちら:
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エミリー・ドゥケンヌ(ロゼッタ):1981年ベルギー出身の女優。デビュー作の本作『ロゼッタ』でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞。2001年公開の映画『ジェヴォーダンの獣』で世界的に知られるようになりました。
『ロゼッタ』のネタバレ感想
ベルギー本国で青少年改正までさせてしまう本作品の社会的影響力については、映画を見て思わずその生々し過ぎる内容のインパクトに思わず納得!
ダルデンヌ兄弟の執拗な映画作りの特徴は、こんなシーンに良く表れています。少女ロゼッタが自分の家のあるキャンプ場に戻る時はいつも幹線道路沿いの抜け道を通ります。ここでは毎回同じ様に今まで履いていた靴を丁寧にバッグの中にしまい込み、土管に岩の蓋をして隠して置いたゴム長靴に履き替えるシーンがあります。同じ映像を恐らく5,6回見せられているのではないでしょうか? 通常の人ならば、家に帰る前に靴を履き替えるという動作はほとんど縁が無いことです。これはトレーラーがおかれたキャンプ地が荒れ地で水はけが悪い湿地の中にある為、普通の”靴”で歩き回る事が困難な環境である事を視聴者に強く訴えかける意図がある事を感じました。
更に、キャンプ地とは家の周囲を底なし沼に囲まれています。ロゼッタ自身一度池に落ち、ぬかるんだ底には立つことが出来ません。必死の思いで何とか岸に辿りつきました。後には青年リケも釣り道具を探そうとして、沼に転落して九死に一生を得ています。この土地はアマゾンではなく、ベルギーなのですからびっくり仰天しました。
ワッフル屋で職を得る為に友人リケの悪事(作ったワッフルの数をコマ化していた)を主人にばらし、まんまと彼をくびにしてその後釜に座ります。これも生きる為には仲間を犠牲にしなければならないという凄まじい生存競争を見事に表現したものです。
今後ワッフルを食べる度にロゼッタとリケの顔を思い出しそうです...
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