「日本美術の底力」をなぜ読んだのか
この本はぶらりと立ち寄った書店の店頭でたまたま手に取った本です。日本美術に特別に興味感心があった訳ではありません。時々美術館に立ち寄り、鑑賞する程度で足繁くに美術館を巡り歩くとという趣味は有りませんでした。ところが、本書を手に取りパラパラとページをめくると目に入る原色の美術作品が紹介されています。収載されている作品はどれもこれも美しく、又、余り普段見掛けない作品が多く、すごく興味を魅かれ、購入して早速読んでみました。
結論から言って、かなり詳しく、分かり易く説明された解説書なので非常に面白かったと思います。買った後に気づきましたが、カラー写真が60数ページと多数収載されているのが理由か分かりませんが、新書本にしては高めの1,200円(+税)でしたが、良い作品を紹介を頂いた事、また、日本美術の見る為の新たな視点(縄文系なのか弥生系なのかはたまたハイブリッド系なのかと観察しながら見る)を知り得たことはそれなりの価値はあったので大変満足しています。
強調されているのは縄文の造形を源流として旺盛な装飾意欲や、そこから生み出されるエネルギッシュな表現と弥生の造形を原型として、日本人が丹精してきた典雅なニュアンスとが大まかに大別されてというのが基本的な考え方です。
「日本美術の底力」 を読んだ概略、トピックス
従来日本の美術史は大陸との交流が開始された以降の「弥生」を起点に語られる事がほとんどでしたが、紀元前13,000年以降の縄文時代にも土偶・土器などで極めて「ジャパン・オリジナル」な作品も多数出土しています。以前、縄文時代は「神代」の時代と認識されており、実際良く分からないと認識されていた時代の作品は、余り評価されて来なかったのか実態です。最近徐々に何点かは、国宝指定を受けるなど高く評価される様になってきました。それには、縄文の美と凄さを絶賛し「縄文土器論」を発表さされた岡本太郎氏の貢献が大きいと言われています。
氏は「弥生」の文化の下層には「縄文」文化の伏流水が流れており、時として縄文文化が弥生文化の上に溢れ出てくること現象が起きていると言います。
それでは、本書で紹介されている具体的な作品をピックアップして紹介してきましょう。残念ながら写真及び著者の解説を読ませて頂き判断して報告しています。実際、一日も早くホンモノを見て見たいという気持ちはあります。
縄文から日本美術を見た代表例 :
1.「日月山水図屏風」(作者不詳)六曲一双、大阪・金剛寺像、国宝。本書内では総数4ページで展開さています。本作品は今回初めて垣間見る事が出来た作品です。野性味溢れた構図・色彩・精緻さなど実に驚く出来栄えです。傑作だと素人が見ても思いました。本物を大阪まで直ぐ見に行きたいと思います。これほどの傑作にも関わらず、なぜ作者不詳なのかよくわかりません。また、これと似たような画風の作品は他に一つもなく、唯一無二で存在する不思議な作品です。
2.「洛中洛外図屏風」(岩佐又兵衛)六曲一双、東京国立博物館蔵、国宝。総勢2,700名を超える人物を描き、人形浄瑠璃を演じているシーンから、公家、武士、庶民すべての人々の姿、泥酔して両脇を抱えられる人等精緻に描いています。絶対見たくなりました。詳細に見ていたらどれだけ時間が掛かるか分かりません。
3.「動植綵絵」全30副 (伊藤若冲)宮内庁三の丸尚蔵館蔵。『異常なまでに精緻な描写、大胆かつ周到な構図、絵筆を完璧にコントロールした超絶技巧』と絶賛されています。若冲は10年間を掛けて30作品を仕上げています。装飾の過剰さは縄文芸術と共通するとの指摘。超リアルだけれども現実離れした部分もあるそうです。これらも皇居散歩のついでに是非見学したい作品です。現在は新コロナの影響で尚蔵館は閉館されていますが、通常は入場無料で公開されています。
4.「達磨図」(白隠)大分・萬壽寺蔵。白隠が描いたの80歳過ぎ、しかもプロの絵師ではない素人。『天衣無縫な筆致、奇想天外な図様には、余技のレベルをはるかに超えた凄みがある』大きなギョロ目で、大きな頭で太い線で描いた赤い衣、縦2㍍もある大きな作品だそうです。確かに絵の技量云々よりもその漲る迫力に、作者そのものが乗り移った様で圧倒されてしまう絵だと思います。実物と対面してみたいものです。
5.「諸国瀧巡り 木曽路ノ奥阿弥陀ヶ滝」(葛飾北斎)岐阜県博物館蔵。滝の上部を円形にして、穴の様な正円の中に曲線で水流を描いている異様な滝の姿が描かれています。北斎の頭の構造はどうなっているのか本当に不可思議です。
6.「天女(まごころ)像」(佐藤玄々)東京・日本橋三越本店。高さ11㍍、三越デパートにあるのを見たような気がします。「縄文の美しい奇形」と評しています。高さは予定の2倍、およそ10年を費やし作成されたそうです。岡本太郎の太陽の塔も真っ青と言った感じです。関わった職人は延べ10万人という代物です。一階から見上げるだけでなく3階あたりから像の裏側、横から見た時の曲線美を鑑賞したらよいとの事、三越に買い物に行った際は、是非はもう少し時間を掛けてゆっくり見てみましょう。
7.「慧可断臂図」(雪舟)愛知・斉年寺蔵/国宝。絵にはおかしなところがたくさんあると指摘されます。傑作には間違いありませんが、耳が餃子のようでおかしいと。表情がとにかくユニークで面白い、何かを二人で語りあっている様です。達磨はなんとも困った顔をしているのが見て取れます。雪舟の人間味を垣間見る事が出来る作品である様です。
弥生から日本美術を見る代表例:
「納涼図屏風」(久隅守景)二曲一隻 東京国立博物館蔵。夏の夜、夕顔棚の下に蓆を敷いて、三人家族が寛いでいる様子が描かれています。昔教科書で見たような気もします。作者は正統派狩野派からスピンアウトした剛腕絵師との事です。一門を追われた後、加賀前田家の招きで金沢に滞在し、独自の境地を開拓していったとあります。都会を離れて完璧に脱力した感じが羨ましくいいですね。
間の客観的な意見はどんなものがあるのか
出版開始早々なのでまだ他の書評などは見当たりません。
同じ作者のおすすめの本はあるか
残念乍ら、今回「日本美術の底力」が初めて読む本の為、おすすめ出来る本はまだありませんが、既に多数の著作を出版されている様です。
岡本太郎宣言 平凡社 2000
室町絵画の残像 中央公論美術出版 2000
水墨画発見 平凡社 別冊太陽 日本のこころ 2003。図版解説
日本美術の二〇世紀 晶文社 2003
伊藤若冲 鳥獣花木図屏風 小学館 2006。図版解説
未来の国宝・MY国宝 小学館 2019
主な共著
日本美術応援団 赤瀬川原平 日経BP社 2000 ちくま文庫 2004
京都、オトナの修学旅行 赤瀬川原平 淡交社 2001ちくま文庫 2008
他多数。
まとめ
少し前に、「線は、僕を描く」(砥上裕将著)線は、僕を描く 砥上裕将著 2020年本屋大賞ノミネート作品レビュー
を読んで、水墨画に少し興味を持ち美術展でもあったら行ってみようかと考えていました。現在は、外出自粛ムードで美術館見学は難しい状況になってしまいましたが、状況が一日も早くよくなることを願うばかりです。
一方、今回改めて知ったのですが、最近は日本美術ブームがずっと続いている状況らしいです。色々な理由があります。インターネットの発達による口コミの影響、行政改革により美術館も設けなければならず、美術展の開催が増えたことも理由と聞きます。理由はどうあれ、優れた作品に触れること程幸せな事は無いので、ゴッホやゴーギャンなど欧米の絵画ばかりに目を向けず、今後は身近な日本の素晴らしい作品にもどんどん目を向け、良く理解し、実際作品に触れていきたいものです。
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