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おすすめ本|『椿井文書-日本最大級の偽文書』馬部隆弘著(中公新書)数百点にも及ぶ偽古文書が流布している理由とは?

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「椿井文書」のあらすじ・概要

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中世の地図、失われた大伽藍や城の絵図、合戦に参陣した武将のリスト、家系図……。これらは貴重な史料であり、すべて本物とばっかり思い込んでいました。学校教科書や市町村史にも活用されてきました。しかし、もしそれが後世の偽文書だとしたら...しかも、たった一人の人物によって創られたもので、お金で売られていたものと知ったどうでしょうか。椿井政隆(1770~1837)が創作し、近畿一円に流布し、現在も影響を与え続けている数百点にも及ぶ偽文書に関わる解説書・論文です。

著者について:1976年,兵庫県生まれ.1999年,熊本大学文学部卒業.2007年,大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了.博士(文学).枚方市教育委員会,長岡京市教育委員会非常勤職員等を経て,現在,大阪大谷大学文学部准教授.専攻は日本中世史・近世史。

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「椿井文書」の感想

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非常に厳密で詳細な研究成果の説明で説得力がありました。現地にも足繁く通われており、非常に現地の歴史そのものに愛着を持たれていることが良く分かります。

それにしても本書で明らかになっていく内容には唖然とさせられました。こんな事が世の中にまかり通っていいものだろうか? 一体何を信じればいいのか少し困った事になります。正に衝撃的な暴露本ではないでしょうか?これ研究をもとに、史実を訂正する必要が出てくる地域、対象物件もあるかも知れません。或は、それはそれとして、古くからこうなっているから、いまさら何を言うのかと開き直る人もいるかもしれません。

椿井政隆氏は江戸後期の実在の人物で、他人の求めに応じて事実と全く異なる内容の文書(家系図、縁起書、図絵など)を素人には分からない様に偽造して金を稼いでいたという話です。5枚で5両(現在価格50万円)という領収書まで発見されているそうです。これが、江戸時代、明治から現在まで椿井文書に基づく『歴史』が真実であるして、そのまままかり通っていることも明らかになっています。

元々歴史と言うのは勝者の立場で書くもので、ある程度一方的な話であるという事は以前から良く聞く話ですが、家系図、神社の起源等々も求めに応じて有利になるように本物らしく改竄してくれる商売が成り立っていた事に少なからず憤りを感じますが、それを要求していた人も多かったという事でしょう。

これが氷山の一角で、全国あちこちで似たような「商売」をやっている輩は、多分多かった様な気がします。『家系図』を買ってくる話は少しテレビや本でもやっていた様な気がします。

古文書はすべて本物で、あの難しい字を読み解いていけば、本当の歴史が分かるとばかリ思っていましたが、偽古文書も相当数で回っているというのも、何となく裏切られた様な気がします。しかい、世の中、需要と供給のバランスで成り立っているので、偽文書を欲しがる人がたくさんいた事自体も大いに問題だと思います。 

今後は、各地の旅行先、訪問先の立て看板、神社仏閣の由緒来歴の説明分などは、そのまま鵜呑みにすることなく、少し疑って掛かる必要があるかもしれません。

世間の一般的な意見はどんなものがあるか?

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一般読書者の感想につき何点か引用させて頂きます。

江戸時代後期の近江に生きた椿井正隆が生み出した膨大な偽の文書に歴史研究者が迫る。驚くのはその量と巧妙な手口、影響の広がりだ。由緒を欲しがると富農家に偽系図で応え、祭祀権を争う村の片方にお墨付きの絵図を与える。中世の近畿地方にパラレルワールドを創造していくのだ。今日でも影響は止まず、自治体編纂の郷土史に掲載され引用されて広がっていく。ウィルスが組み込まれたソフトウェアがIoTの流れに乗って伝染するようで恐ろしい。真実の歴史を追求する人文学の知恵の重要性を再認識した。

「希書の世界史」で日本代表として紹介されていた椿井文書。これは江戸時代に椿井政隆という人物が近江国周辺の地域史について「創作」した膨大な偽書である。共通の人物名を複数の文書に登場させて信憑性を高めたり、絵を活用したりとかなり手が込んでいる。病的である。地域史として現代にまで影響を与えているというから、問題は深刻だ。200ページ以上にわたるこの著作はまさに論文だが、いや大変面白かった。著者の綿密な調査に感服。たまにこういう良質な研究が出てくるから歴史は面白い。

最後に

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研究成果のエッセンスが凝縮された内容で、じっくり読まざるを得ず、読むのに結構時間を要しました。それでも、本文中豊富な図絵も添付されており、たいへん興味深く読む事が出来ました。お寺の伽藍の様な絵図はかなり精巧に描かれており、これの真贋を見極めるのは素人にはほぼ困難であろうという気はします。時代の経年により紙の質の変化があり、中世のものと言われれば専門家が見ればすぐ偽物とばれてしまうのかもしれません。歴史を研究するやり方として、印刷された活字にばかりにとらわれず、実際の古文書を丹念に紐解いていく、地道な研究方法もあることが良く理解出来ました。

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