「オーバー・ザ・リミット」の概要・あらすじ
ロシアの新体操選手マルガリータ・マムーンが2016年リオ五輪で金メダルを獲得するまでの過酷な道のりを追ったドキュメンタリー映画。新体操王国ロシアの代表選手である20歳のリタ(マルガリータ・マムーン)は、オリンピックに向けて鬼コーチたちから強烈な指導を受け、日々過酷な練習に励んでいる。アリーナ・カバエワら多くの金メダリストを育て上げたイリーナ・ビネルの指導は、特に精神面において極めて厳しく、肉体面でも満身創痍での練習風景には涙を誘うような修羅場が展開される。コーチたちではリタにさらなる高みを求め、何度も何度も練習を繰り返させるが、映画のなかでは、褒める言葉は非常に少なく、傍で見る限り選手の失敗した演技に対する罵詈雑言の嵐と感じられるかもしれません。わずかな自由時間には恋人と電話で話し、家族と一緒に穏やかな癒やしの時を過ごすリタだったが、すぐにまた過酷なトレーニングが始まります。美しく華やかな表舞台の裏側に隠された、アスリートの想像を絶する世界にカメラが迫ります。
スポーツ関連映画の最近の投稿はこちら:
アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル マーゴット・ロビー主演映画レビュー
レビュー|「ファイティング・ファミリー」フローレンス・ピュー主演/女子プロレスラー・フローレンス、兄妹対決!
「オーバー・ザ・リミット」のスタッフとキャストについて
マルタ・プルス監督:1987年、ポーランド・ワルシャワ生まれ。女性監督。自身が新体操とコンテンポラリーダンスの経験者、演技のシーンについては経験者ならではのポイントを押さえた素晴らしい演技の映像の数々を捉えています。
『米エンタテインメント業界紙Varietyの「注目すべき10人のヨーロッパ人」にも選出された俊英監督は、粘り強い交渉によって、秘密のベールに包まれていたロシア新体操のトレーニングの撮影を許され、ドキュメンタリーでありながら『セッション』や『ブラック・スワン』などと比較される強烈な世界を映し出した』
マルガリータ・マムーン(本人):1995年モスクワ生まれ。ロシア人の母とバングラデシュ人の父を持つ。幼少期にはバングラデシュの選手として活動していたが、その後ロシアの選手として活動。世界選手権では合計7つの金メダルを獲得し、ヨーロッパ選手権、ワールドカップ、グランプリシリーズなどでも活躍。
本編映画でも語られていますが、2016年のリオ五輪優勝直後に引退しているため、新体操に関心のある人を除いて、彼女の名前を記憶している人はそう多くはないのかもしれません。
イリーナ・ビネル(統括コーチ):一切の妥協を許さない、ロシアでも伝説的な指導者とされ、数多くの金メダリストを輩出してきたヘッドコーチ。
アミーナ・ザリポア:鬼コーチ
「オーバー・ザ・リミット」のネタバレ感想
素晴らしい演技で観客を魅了する新体操ですが、舞台の裏ではやはり想像を絶する厳しい練習の積み重ねがある事が本作品ではっきり分かりました。良くぞ、ここまでの内実を映画として発表することをロシアのコーチ陣が認めたと驚きです。選手に対する罵詈雑言でコーチだけでなく、その上の統括コーチも輪を掛けてダブルで襲い掛かります。聞くに堪えない”叱咤激励“の嵐・想像以上の訓練風景には目を伏せたくなる・耳をふさぎたくなる様な場面が多々描かれています。
一時日本の女子体操界でもパワハラ等問題になっていましたが、同じ様な厳しい指導方法は多分、強豪国の中では当たり前にあるだろうなと、うすうす感じてはいましたが、ここまで、はっきりと包み隠さず、ドキュメント映画化し公開することを許可してしまうところがロシアの強さの秘密の一端があるような気がします。また、鬼コーチはふたりとも、ウズベキスタン出身ということでしたが、新体操競技と深いつながりがあるのでしょうか?
厳しい練習で肉体的にも精神的にも限界に達しながらも、決してくじけることなく、物凄い重圧は跳ね返して、本番のオリンピックでは見事に優勝してしまうマムーンの精神力・肉体のタフさには本当に驚嘆しました。
コーチ陣はマムーンの素晴らしい演技についてはあまり褒める事はありません。ミスばかりを徹底的に指摘して、立ち直れないくらいに口撃の手を緩めません。周囲の男性トレーナー陣も一切関わる事は出来ず、時々裏に回りマムーンの愚痴の聞き役に回るのが関の山です、それ以外は茫然として見守るだけです。
マムーンは幼少期よりアミーナ・ザリポワに師事し、ロシア代表チームではイリーナ・ヴィネルの指導を受け、世界選手権では合計7つの金メダルを獲得、ヨーロッパ選手権、ワールドカップ、グランプリシリーズなどで大活躍、そして2016年リオデジャネイロオリンピックでは個人総合金メダルを獲得する輝かしい実績に溢れていますが、ロスオリンピック優勝直後にあっさりと引退、結婚しています。「新体操界を去った」と映画のラストにありましたので、今後は後進の指導に当たる事も無いのかもしれませんが、少し残念な気がします。
なお、厳しい練習シーンの連続ばかりで、本番のオリンピックの晴れ舞台での優勝演技は多分IOCの規制の問題で、本作品中では一切映像を見る事は出来ないのは非常に残念です。
そこだけは、本作品の難点ではないかと感じる人は多いと思います。耐えに耐えて、練習を重ねて最終的には「オリンピック優勝」を期待通りに獲得できた演技を、全く見られないのは多くの映画の観客はとてもがっかりしたに違いありません。
最後に
美しい舞台の裏側は想像以上に厳しい世界である事が良く分かりました。ロシアではオリンピックでメダルを獲る事が国威発揚の国策の一環として据えられている様子が良く分かりません。「人間ではないアスリート」として選手を扱っている様です。是非は兎も角、才能を開花させることも重要な事ではありませんが、我々凡人は人間性を無視したような厳しい訓練には少々怯んでしまいます。
本作品はまだ若いマルタ・プルス監督が新体操界の裏側にカメラを持ち込み、迫真のドキュメント映画をものにしている手腕は大絶賛ものだと思います。但し、繰り返しになりますが、オリンピックの優勝演技が少しだけでも観たかった!
コメント