わたしは、ダニエル・ブレイクのあらすじと概要
社会派ケン・ローチ監督の硬派な強烈パンチが一発撃ち込まれた感じのする本作品だ。イギリス社会はまるで矛盾だらけ、強者には弱く、弱者には強くでる役人根性丸出しで追いつめている。最近、鑑賞した「家族を想う時」と本質的には全く同様な社会内部の矛盾を鋭く突いている映画となっている。
家族を想うとき 映画 ケン・ローチ監督作品 英労働者階級,現実社会の衝撃的な真実を描写
2016年・第69回カンヌ国際映画祭で、「麦の穂をゆらす風」に続く2度目の最高賞パルムドールを受賞した、イギリスの巨匠ケン・ローチ監督作品。イギリスの複雑な制度に振り回され、貧困という現実に直面しながらもお互いに助け合って生きる人びとの姿が描かれる。
イギリス北東部ニューカッスルで大工として40年間働いていたダニエル・ブレイク。心臓に病を患ったダニエルは、医者から仕事を止められ、国からの援助を受けようとしたが、複雑な制度のため満足な援助を受けることができない。ロンドンから最近引越して隣人であるシングルマザーのケイティと2人の子どもの家族を助けたことから、ケイティの家族と絆を深めていくダニエル。しかし、そんなダニエルとケイティたちは、厳しい現実によって徐々に追い詰められていく。
わたしは、ダニエル・ブレイク ネタバレ感想
ストーリーとテーマについて
ケン・ローチは本気で怒った。
それで『私は、ダニエル・ブレイク』を撮った。
この国は何なのだ。誰のための国だ。
老人を置き去りにし、シングル・マザーの家族に手を差し出すこともなく、逆に突き放す。日本でも同じことが、いや、世界中で同じことが起きているので、私も日頃から怒っている。
でもその怒りを社会を変える力にできない。
ケン・ローチも映画にできることは限界があると認めていますが、声を上げず、作品を撮らず、黙ったままではいられない。という言葉が示す通り、ケン・ローチ監督は本作品でイギリスの社会福祉制度の矛盾点を余すところなく、暴露しています。それが真実とすれば、見る人誰もが異常さに気が付き、改める動きとなっていくように思えるのですが、、、
大きな矛盾はダニエルが心臓の持病を持ち、労働することを止められているにもかかわらず、役所は就職活動をやっていないと支援手当の給付は認可されないので、履歴書を準備して就職活動を行うようにダニエルに指示をします。それに従いダニエルは慣れない手書きの履歴書を持ち就職活動を行い、ダニエルを雇い入れたいという雇用主に出会いますが、この雇用主には実は就職は出来ないと打ち明け、雇用主を怒らせてしまいます。
また家族ぐるみでダニエルと仲の良い友人であるケイティーは小さな子供を養い、支援手当も思うように受給出来ず、電気も止められ冬でも暖房も使えない不便な生活を強いられています。食事も思うように食べられない状況に陥ります。とうとう、万引きを咎められますが、それを機会に売春の仕事の斡旋を受けるまで身を持ち崩します。
最終的にダニエルは支援手続きの最中に心臓麻痺で亡くなる結果になるのですが、社会制度がもっとしっかりしていればしっかり生きながらえたのではないかと誰もが思うに違いない悲壮な死に方をしています。
キャラクターとキャストについて
ケン・ローチ監督:1936年6月17日、イングランド中部・ウォリックシャー州生まれ。オックスフォード大学に進学し法律を学ぶ。66年の「キャシー・カム・ホーム」で初めてTVドラマを監督、67年に『夜空に星のあるように』で長編映画監督デビューを果たした。2作目『ケス』(69)でカルロヴィヴァリ映画祭グランプリを受賞。その後、ほとんどの作品が世界三大映画祭などで高い評価を受け続けている。労働者や社会的弱者に寄り添った人間ドラマを描いた作品で知られる。その政治的信念を色濃く反映させた、第二次世界大戦後イギリスの労働党政権誕生を、労働者や一市民の目線で描いたドキュメンタリー映画「THE SPIRIT OF ‘45」(13)などがある。ケン・ローチのフィルモグラフィーにおける集大成とも言える本作は、2015年のカンヌ国際映画祭では『麦の穂をゆらす風』(06)に続く2度目のパルムドールを受賞。
まとめ
上述通り、「ケン・ローチも映画にできることは限界があると認めているが、声を上げず、作品を撮らず、黙ったままではいられない」という言葉が印象に残る通り、ケンローチ監督の怒り声が聞こえてくる様だ。本作品や他類似作品の影響でイギリスの制度は改善したのだろうか? イギリス人に聞いてみたい。あるいは池上彰氏に聞いたら詳しく解説してくれそうだ。ケン・ローチ監督の執念が感じられる本作品は96点。
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