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おすすめ本|『「馬」が動かした日本史』蒲池明弘著(文春新書)

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おすすめ本の紹介
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なぜ「馬」が動かした日本史 を読んだのか?

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人類と馬の関わり合いは太古の中央アジアで始まった馬の家畜化が起源という話が毎日新聞の本書の書評欄に説明されていました。また、その書評では農耕民は、人口や食料生産力で勝りながら、騎馬の戦闘力に勝る遊牧民にしばしば征服されてしまう。うんぬんの話がまず目につきました。

しかしながら、日本でも「稲作」と「馬産」という土地利用のコントラストが、日本史の根幹を左右してきたという記載に関しては少し首を傾げました。確かに古墳から発掘される馬型の埴輪などの多くの出土品、戦国時代の騎馬部隊、など戦いで活躍する「馬」がいる事実は多少認識がありましたが、日本史を動かす程の背景に大きな「馬」存在が関わっていたという考え方は初めて聞く話であまりピンときませんでした。

本作品を読み進めてい見ると、著者は歴史学者ではなく、読売新聞本社経済部・山梨支社などで活躍された方と伺っていますが、綿密な現地調査や歴史文献の調査に基づく研究成果であり、オリジナリティー溢れる力作にひきこまれていきました。

本書を読むことにより日本史の理解の仕方に関して一皮剥けた感じがします。各地に残る馬の飼育に由来する地名や豪族の血縁・地縁などの関係も紐解く記載もあり非常に興味深く読む事が出来ます。一般的な歴史書では教科書的な理解しかできませんが、本書の様な別な角度から新たな解釈が加わることで、地名の由来が分かったり益々歴史に興味が湧いてきます。

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「馬」が動かした日本史 を読んだあらすじ・感想

山がちでありながら、じつは日本列島には馬の飼育に適した草原が広がっており、東アジア随一の巨大な馬の生産国だったのだ。

この記載にはあれっと思う読者が多いのではないでしょうか。国土の70%が山地であり、馬の飼育に適した牧草地が日本にそんなにたくさんあるのだろうか、と疑問を感じるのではないでしょうか?

ところが、実際はあるはあるは昔、馬を飼っていた思われる牧草地は主に、余り稲作には適していない火山性の土地である「黒ボク地」(クロボクド)これは初めて聞く名前ではありますが、南九州のシラス台地や関東ローム層、はたまた北東北の火山性の土壌に覆われた太平洋側地区が牧草地としての適地であったそうです。

そこでは多くの馬が放牧され戦時には大活躍する軍用馬として使われ、馬の保有数が軍事力に比例し強大化していったのではないかという見解が展開されます。また、古来、一部の馬は日本から朝鮮半島に軍用馬として、日本人の傭兵と一緒に「輸出」され「外貨」を稼いだという、実にユニークな面白い話も展開されます。

おもな馬の生産地は北東北、千葉、山梨、伊勢、河内、九州南部。
すなわち奥州藤原氏、平将門、武田信玄、平清盛を輩出した伊勢平氏、源頼朝のルーツ河内源氏、島津家と、日本史に輝く武将の地盤と重なっているのだ。
徳川家康の生まれた三河も馬産地である。

大阪の河内地方も地質的に水稲に適さず、牧草地として活用され、軍馬量産により河内源氏の勢力拡大の資源となったとの事です。ここでは山梨・甲斐同様地質的には、水稲ではなく牧草地・葡萄栽培の適地となっているという共通点があるそうです。河内に葡萄畑があるかどうか全く知りませんが、世界遺産となった世界最大の前方後円墳など多数の大規模古墳があることは、それなりの勢力を誇る豪族が支配していた地域だったことを物語っています。その背景は「馬」の飼育力だったと。

武田信玄も甲州金山の話も有名ですが、火山性の土地は馬産地に適し「甲州騎馬軍団」を編成し、勢力を拡大したと言われます。

古代から近代以前、馬は重要な輸送機関であり、軍事兵器だった。
だから高値で売買され、莫大な富を馬産地にもたらした。その馬産地から、馬の活用にたけた武力集団が誕生し、彼らが権力を奪取した。

この記述なども地方豪族の力の背景が金山などの資源ではなく、馬産地として莫大な富を得ていた事で説明されています。これも説得力のある説明だと感じました。

なお、現在私が居住している地域は千葉県北東部ですが、実はここは江戸幕府の日本最大級の馬牧場の一部であった場所だそうです。その中でももっとも大きいのが現在の成田空港周辺。また、徳川家康は北東北の最大の馬産地の八戸・南部藩との非常に懇意で馬の飼育の情報を得ていたのではないかとうことも述べられており、「馬」物語の展開はまったく止めどなく続きます…

世間の客観的な意見はどんなものがあるのか

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読書メーターの書評欄から一部引用させて頂きます。

黒ボク土の草原が本邦の馬産を発展させた歴史を、様々な事例・事象で証明しようとする一冊。ダイナミックな読みごたえと同時に、身近に検証できる部分では強引な解釈が散見されるため、全体的には(少し割り引いて読んだほうがいいかな…)と感じてしまう。馬の視点で日本史の流れを捉える試み自体は、好感を覚える…

同じ作者のおすすめの本はあるか

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まだ、本書「『馬』が動かした日本史」が同著者の初めて読む作品であるため、この機会に他作品も読ませて頂ければと思います。

  • 邪馬台国は「朱の王国」だった (文春新書)
  • 火山で読み解く古事記の謎 (文春新書)
  • 火山と日本の神話 (桃山堂)
  • 豊臣秀吉の系図学 (桃山堂)

最後に

良く自転車を乗る江戸川サイクリングロードの土手には春は一面の菜の花畑になりますが、夏季が過ぎる4月以降はありとあらゆる雑草が繁茂し始めます。ここに一日 40㌔もの牧草を食べるという大食いの馬を放し飼いすれば、除草費用も掛からないのではないかと今日考えました。現在の機械化された生活では馬、牛とは無縁になってしまいましたが、耕作放棄地への「野馬」の導入とか考えられれば面白い試みだと思います。

本書の内容とはまったく違う締めくくりになってしまいましたが、本書は新たなアイデアを生むヒントが満載されている本だという読み方もあると思います。おすすめの一冊です。

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