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おすすめ本|『水道、再び公営化!欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』 岸本聡子著(集英社新書)

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おすすめ本の紹介
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なぜ、「水道、再び公営化!」を読んだのか?

先週末の毎日新聞の新刊書書評欄に紹介されていたので、興味があり読んでみました。欧州各国での水事業民営化の結果が説明されており、説明されている水メジャー企業のやりたい放題の状況は想像を遥かに上回り嫌悪感すら感じるものがあります。一方、日本は周回遅れで正に法改正も行われ、愈々これから本格的に水道事業への民間事業者の参入が始まろうとしているとのことでした。下手をすると欧州の状況の二の舞を踏むことになりかねないので非常に危惧しています。

一方、同じようなPFIも以前日本でも大変話題となっていました。民間の活力やノウハウを公共事業に生かすというシステムを取り入れた事業運営はその後上手く機能しているのでしょうか? こちらも少々心配になってきました。

また、本書は水道事業を取り上げていますが、根本的な話のベースは欧州に起きている新自由主義や緊縮運動に対抗する草の根、市民運動の動きの高まりの詳細を具体的に説明するものになっており、分かり易き良く理解できました。

「水道、再び公営化!」を読んだあらすじと感想

既に水道事業の民営化は欧州を中心にかなり浸透していますが、これらの国では驚くことに逆に水道の再公営化が進みつつあるという事実に正直驚きました。具体的にはフランス、ドイツ、カナダ、マレーシア、アルゼンチンなどが、世界各国で再公営化に転じた事業は2017年には267もあるそうです。著者が指摘するその理由は、民営化された後の事業の質の低下がひどく、運営が杜撰且つ事業内容が不透明というものです。杜撰な管理による収益低下のつけはすべて市民に対する水道料金の値上げの押し付けという形で負担させられる。

具体的な例

1.パリ 水道料金は1985年に民営化され2009年までに水道料金は265%値上がりしました。パリ市に取って「企業の経営を監督できる」というモニタリング条項は有名無実化され実際にはまったく機能していないかったという事です。2010年に民間企業ヴェオリア、スエズとの契約を終了し、再公営化が開始され事業収益の大幅な改善により、水道料金の値下げが実現されました。

2.イギリス.2018年会計検査院の報告で公開入札で行われる事業に比べて、PFIで行われる事業は「40%も費用が割高である」という調査結果を発表されました。なお、PFI事業による国の借金は28兆円であることが分かりました。PFIなら、公的財政支出無しに公共サービスを賄うというのは真っ赤な嘘だったという事にイギリス人は気付き愕然とします。

水道民営化は組織的な詐欺に近い」とファイナンシャル・タイムズ紙は民営化を酷評しました。

民間水事業者は税金逃れの為に多額の借金による資金調達を行い、本来入る筈であった税収を取り損ねた。また、経営陣への高額報酬を確保したことは水道料金の一部として市民の負担になっていました。さらに水道料金の値上がりにより下水道料金が収入の5%以上にあたる世帯が全体の1割も存在する状態に陥りました。水貧困(水道代金の支払いもままならない状態)の世帯の急増、世帯の1/4にも上る地域があるという深刻な社会問題が発生している。

この水事業の再公営化の動きの原動力は公共サービスを行政任せにせず、市民が積極的に参画し、民営化で失われた(コモン)の管理権=社会的な富の管理権を回復しようとするJ動きが起きているといいます。水道などの公共サービスについての自己決定権を取り戻そうという民主主義的な運動の高まりです。これが従来の行政一任の”公営水事業”と明らかに異なる部分となっています。典型的な動きはスペインの地方地域レベルの民主主義活動グループなどの動きを本書内でクローズアップしています。

日本に関しては、今後の黒船来航に備えてフランス、イギリスの二の舞を避けるために我々一般市民が出来る事の具体的なヒントが書かれています。それは市民のネットワークを作り連携していくのが始まりの第一歩だと指摘しています。

本書のどの情報も非常に重要な物ですが、日本にいると余り入って来ない情報で貴重な内容だと思いました。一人でも多くの日本人が理解すべき内容であり、PFIなど水道事業の民営化は決して公共の負担削減というバラ色のモノではなく、水事業民営化の動向はしっかり見極めていくべきものであると認識させられました。

世間の客観的な意見は、どんなものがあるのか?

以下いくつか引用しますが、分かり易き有益で役立つとの意見が多いです。

民営化が実は効率化等に全く結び付かず逆に国際メジャーに搾取される結果となっていることを解き明かすだけではなく、民主主義の再生と地域の国際的な連携と重ねて、地域の持続可能な成長に結びつくことを説明する。最後に日本においてどう運動を広げれば良いかの示唆している。

自分の地元で水道民営化が検討されていると聞き、慌てて読んだ。非常に有益。かつ面白い。地方自治体と市民運動の人々の連携が物語として読めるし、政策論の部分も分かりやすかった。

著者岸本聡子氏のおすすめの本はあるのか?

著者は2003年から、アムステルダムを本拠地とする政策シンクタンクNGO「トランスナショナル研究所」に所属しており、新自由主義や市場原理主義に対抗する公共政策や水道政策のリサーチ、および世界中の市民運動と自治体をつなぐ役割もされているそうです。

共著に『安易な民営化のつけはどこに』があります。まだ読んでいないので今後是非読んでみたいと思います。

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