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おすすめ本|『皇国史観』片山杜秀著/天皇制について、少し考えてみるきっかけに!

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おすすめ本の紹介
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なぜ、「皇国史観」を読んだのか?

Frank WinklerによるPixabayからの画像

良く聞くことはあっても明確に説明できない言葉でした。大昔からある考え方と思いきや明治以降、昭和に掛けて強調されるようになり、主に軍事教育で教え込まれたとあります。本書は毎日新聞書評欄でも新刊書として紹介されていた為、読んでみたものです。豊富な内容も分かり易く説明されており、大変に参考になる解説書だと思います。10回分の講義形式に区切られており、「皇国史観」をもう一度整理して理解したい方必読の書だと思いました。

新刊書に関わる最近の投稿記事はこちら:

「日本人が誤解している東南アジア近現代史」 川島博之著

知的好奇心おすすめの本「美術展の不都合な真実」古賀太著

知的好奇心おすすめの一冊 「歴史の教訓」失敗の本質と国家戦略 兼原信克著

「皇国史観」を読んだ感想

かねのり 三浦によるPixabayからの画像

「皇国史観」という最近新たに出版された片山杜秀著を手に取り、まず不安に思った事は内容をきちんと理解出来るだろうかとい思いでした。かなり硬派な書名で「皇国史観」というのは、素人には難し過ぎるのではないかと考えてしまいました。もっとも最近の新書版では「承久の変」なども新刊書として目立つ場所で販売されており、売れ行きを伸ばしているそうです。歴史書は結構、題名の堅さに関わらず、やはり隠れた愛読者が多くいるのではないだろうか、という認識は持っていました。

皇国史観とは、万世一系とする天皇による国家統治を日本の歴史の特色とする考え方のことである。『古事記』・『日本書紀』の神話部分をも歴史的事実とすることを一つの特徴としている 。日中戦争から太平洋戦争期の軍国主義教育の強力な支えとなり、国教化した天皇中心の超国家主義的な自国中心の歴史観である。

万世一系」の「国体」とそれを基軸として展開してきたとみる日本歴史の優越性を強調し、「大東亜共栄圏」思想に歴史的裏づけを与えようとした。その意味で皇国史観は科学性に欠け、自国中心の歴史観で、天皇制と帝国主義を支える一種のイデオロギーであったといわれる。

以上が、ウィキペディアによる皇国史観の解説です。1300年以上続いている天皇制ですが、「皇国史観」という言葉は、天皇制の歴史の長さに比べればごく最近言われ始めた考え方であること事に改めて気が付きました。

やはり、本書の導入部分も水戸学から入っていきました。本書で初めて知ることになりましたが、御三家の中でも水戸藩は、他の尾張藩、紀州藩と違い将軍を出すことは出来ない格下と位置付けられていたそうです。そのような事情もあったことから、大日本史編纂の目的は「天皇を将軍の容易に起き、将軍家と水戸家は一体となって、その永続的秩序を守る事が運命づけられている。これすなわち、覇道の将軍よりも王道の天皇を尊ぶ「尊王」思想と位置づけられていたそうです。これが大日本史編纂の原動力になり、さらに討幕思想の尊王攘夷思想に発展することになります。

一方、当時、徳川家康は実力で関ケ原合戦に勝利し日本を制覇しますが、幕藩体制継続の為の精神的支柱に儒教思想を取り入れる事になります。しかしながら、儒教の考え方の中には、一時的には実力が上で将軍家が君臨しているが、儒教的に正当なものは天皇家であるという理論的な解釈がなされてしまう危険性を波乱でおり、幕末の大政奉還へと繋がると説明されています。

時代をずっと下ると、明治維新前後諸外国が開港を迫り、日本に殺到してきている不穏な国際情勢の中、幕藩体制崩壊のあと、如何に「国民」を意識させ一枚岩となって列強強国と対抗するためには、「天皇」は必要不可欠であったと。但し、もともとの考えは緊急対応策として「天皇」をとりあえず中心に据えて、強い求心力を期待しようという程度のものであったというのが筆者の考え方です。

日本帝国憲法施行後わずか4年目に日清戦争が勃発します。この戦争では24万人の軍人が動員され、17万人が海外に派兵されています。さらにその10年後1904年の日露戦争では更に多くの100万人が動員され、84,000人もの戦死者をだしているそうです。こうして、明治期においては「国民」意識は否が応でも高められ、天皇の求心力が強まったとのことです。なお、国民意識の高まりと共に国民文学としての「万葉集」の再発見があるそうで、天皇から庶民までが歌を媒介として相通じ合う為、「万葉集」で世界感を共有することが出来たとも説明されていました。天皇と万葉集の繋がりは何となくわかるような気がします…

話は少々飛びますが、本書中、第九回で取り上げられる「網野善彦」(1980年代に天皇像をリニューアルして、天皇制の延命に貢献したと語られる)の章では、網野氏が都立高校で歴史の授業で教鞭を取っている際、どうしても答えられなかった生徒からの質問が二つあったというエピソードが取り上げられています。一つは、「なぜ平安時代末期から鎌倉時代に掛けて法然、親鸞、道元、日蓮といった優れた宗教家が生まれたのか」、もう一つは「時代を経るごとに天皇の力は弱くなり、滅びそうになるのに、なぜ天皇は滅びなかったのか?」という質問です。

二つ目の質問に対しての回答は、全く新しい説ですが、天皇は「無縁者」すなわち非農業者(農業以外の生業に主として携わり、山野河海、市・津・泊、道などの場を生活圏とする商工民、芸能民等々)との結びつきが深かったと説明されています。これらの人々と天皇との関係はイマイチ納得がいかない所も多いので、網野氏独自の考え方なのか、ある程度研究が進んでいる一般的な見方のか更に勉強しなければなりません。

世間の一般的な意見はどんなものがあるか?

MustangJoeによるPixabayからの画像

一般読者の書評についき、2,3件参考までに引用させて頂きます。これらも好意的で、参考になったとの意見が多数です。

題名だけをみると堅苦しさがあるが、濃く論じようとするのではなく、あくまで通時的に日本の歴史-とりわけ近世以降の天皇をめぐる歴史的理解を辿る講義であり、読みやすい。島薗進氏との対談『近代天皇論』(集英社新書)にて表された片山氏の天皇論を、より緩やかにアプローチした内容である。
緩やかとはいっても、その射程は江戸前期、第二次大戦後をも範囲に据えているため、読者としてもより広く見据えることができる…

近代日本の歴史観や政治思想を、天皇やその周りの人物、制度から読み解いていく本。著者の片山氏が以前出版した『未完のファシズム』が大変素晴らしかったので本書も買ってみたのだが、同じかそれ以上に面白かった。

本書は江戸時代の水戸学から始まる。水戸藩で育まれた水戸学は、天皇が将軍より上で、将軍は天皇に任命されているに過ぎないという認識の色濃い学問だった。この水戸学は次第に国学と結びつき、天皇を中心とみなし、天皇を徳の度合いに関わらず絶対視する、強力な尊王論思想へと進化していった。

同じ作者のおすすめの本はあるか?

Benjamin BalazsによるPixabayからの画像

『平成精神史 天皇・災害・ナショナリズム』(幻冬舎新書、2018年)
『ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる』(文春新書、2018年)
『鬼子の歌 偏愛音楽的日本近現代史』(講談社、2019年1月)
『歴史という教養』(河出書房新社〈河出新書〉、2019年1月)
『新冷戦時代の超克 「持たざる国」日本の流儀』(新潮新書、2019年2月)
『革命と戦争のクラシック音楽史』(NHK出版新書、2019年9月)

等、著作多数。

最後に

SnapwireSnapsによるPixabayからの画像

少々堅い題名に反して記されている内容にそれ程難しい内容はありませんでした。本書内には結構初めて聞かされる話もあり大変参考になりました。やはり、上述した天皇と農業従事者以外の『無縁者』との繋がりに少し興味を覚えました。この部分は著者自身の説ではなく網野善彦氏の説なので、機会あれば網野氏関連の著作を少し探してみたいと思う。

最近は天皇自身が「国民に寄り添う」というご発言を多用されており、以前よりも天皇を身近に感じられるようになりつつあります。この影響もあり、天皇制の存続の賛成意見も増えているようです。しかしながら、将来的に長い目で見た場合、この点はどうなのか、時代の変化と共に天皇制は変わりつつある可能性も十分あり得るのではないかとも考えさせられました。

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