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おすすめ映画|『鵞鳥湖(がちょうこ)の夜』(2020/ディアオ・イーナン監督)中国社会の底辺で生きる人間たちの現実を、鮮烈な映像で描いたノワールサスペンス

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『鵞鳥湖の夜』のあらすじと概要

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薄氷の殺人」で第64回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した中国の気鋭ディアオ・イーナン監督が5年振りなる待望の新作、中国社会の底辺で生きる人間たちの現実を鮮烈な映像で描いた革新的なノワールサスペンス。

なお、フィルムノワールとは1940~1950年代のハリウッドで作られた特異な犯罪映画の一群を指すとのことです。

2012年、中国南部。再開発から取り残された鵞鳥湖(がちょうこ)周辺の地区で、ギャングたちの縄張り争いが激化していました。刑務所を出て古巣のバイク窃盗団に戻った男チョウは、対立組織との争いに巻き込まれ、逃走中に誤って警官を射殺してしまう。全国に指名手配された彼は、自身にかけられた報奨金30万元を妻のシュージュンと幼い息子に残そうと画策します。そんな彼の前に、見知らぬ女アイアイが妻の代理としてやって来ます。鵞鳥湖の水辺で娼婦として生きる彼女と行動をともにするチョウでしたがが、警察や報奨金強奪を狙う窃盗団に追われ、後戻りのできない袋小路へと追い詰められていくことになりますが、ストーリーの展開からは一瞬も目が離せません。

物語の設定上は中国南部となっているが、実際には中国中部の湖北省武漢市で撮影を行った映像世界は、夜間シーンが大半を占めています。その暗闇の魅惑に満ちたヴィジュアルは、光と影の強烈なコントラスト、極彩色のライトや蛍光ネオンサインが照らす妖しいムードが際立ち、観る者を夢幻的にして迷宮的な陶酔へと誘っていく演出効果が効いています。

なお、中国南部の代表都市と言えば、広州市。ディアオ・イーナン監督も最初は広州で撮りたかったと語っています。でも「鵞鳥湖の夜」に関しては、湖のシーンが非常に重要だった為、特に“湖と街の関係性”について、色々表現をしたかったそうで、だからこそ、湖がほとんどない広州での撮影を諦め、武漢に目を向けたようです。武漢は“百湖の街”と呼ばれるほど湖が非常に多く、街全体もとても美しいとのこと。今では新コロナウイルスの発生源として、一層有名になってしまいましたが、、、

1911」のフー・ゴーが主演を務め、「薄氷の殺人」のグイ・ルンメイ、リャオ・ファンが共演。2019年・第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。

実は、あのクエンティン・タランティーノ監督も、イーナン監督の大ファンであることを公言し「近年では、最も美しい映画」と本作品について激賞しているとの情報もあります。

『鵞鳥湖の夜』のスタッフとキャストについて

ericbarnsによるPixabayからの画像

ディアオ・イーナン(刁 亦男)監督・脚本:1968年11月30日、陝西省西安市で生まれる。1992年に中央戯劇学院を卒業。その後、脚本家として活動を始め、チャン・ヤン監督の『スパイシー・ラブスープ』(1997年)や『こころの湯』(1999年)などの作品の脚本を手がけている。

フー・ゴー(胡歌)(チョウ):1982年、上海生まれ。本作品で、破滅的な運命に魅入られた男のあがきを熱演する。ジャッキー・チェンと共演した歴史大作『1911』や数々のTVドラマで活躍中。

グイ・ルンメイ(桂綸鎂)アイアイ):1983年、台湾生まれ。前作『薄氷の殺人』で主演を務めていた。

リャオ・ファン(廖凡)(リュウ隊長):上海戯劇学院卒業後、数多くの映画やTV作品に出演。2014年、同じく『薄氷の殺人』でベルリン映画祭最優秀男優賞銀熊賞(男優賞)を受賞。中国人俳優が同賞に選ばれるのはこれが初めてとなった。

『鵞鳥湖の夜』のネタバレ感想

AndrewGerkensによるPixabayからの画像

中国西安出身の50才ディアオ・イーナン監督の映画は今回初めて鑑賞しました。噂通り、夜の闇、雨降り、眩いネオンの光などが溢れるシーンが映画ほとんどなので、暗い映画という印象はぬぐえません。一緒に見に行ったかみさんも暗いというのは分かるが、出てくるお店、アパート、駅の待合室、ホテルなど薄汚く、不衛生極まりない酷い様子に驚いていました。わたし自身80年代、90年代の中国、台湾に足掛け10年以上の駐在経験があるので、見ていて全く違和感はありませんでした。現実そのままという感じで、大変懐かしく見ていました。

しかし、この場面が少し前、武漢一部地区の街で撮影されたという事を知り、高度発展を遂げている武漢にも、発展に取り残された地域はまだある事を知り、少し驚きました。もっとも、中国全体の発展の程度はどの地域も斑模様で一律にボトムアップされている訳ではないのかも知れません。

劇中、牛肉麺が二杯で16元(一杯約120円)、そんなもんでしょう。ワンタン食堂もありましたが、店員さんのタレの掛け方がぞんざいでとても美味しそうには見えませんでした。

中国業務に20年以上携わり3度の駐在等を経験していますが、『水浴嬢』には出会いませんでした。地方都市も出張で100都市以上訪問していますが、巡りあいませんでした。中国の湖の印象は杭州の『西湖』、雲南省大理の『洱海』、青海省『青海』など風光明媚な場所の印象しかありません。『鵞鳥湖』が存在することで、中国の美しい『湖』の印象がすこし崩れてしまったのが残念です。

光と影の使い方が非常に上手く、甚だ感心するシーンが各所に散りばめられています。但し、雨の印象が本当に強い映画で、乾燥気味の西安育ちのディアオ・イーナン監督がどうしてここまで降雨に固執するのか少し分かりかねました。中国南方では全般的に冬季は雨シーズンです。連日、日本の梅雨並に雨天が続きます。私の住んでいた湖南省長沙では信じられないと思いますが、11月から3月末までほぼ連日陰湿な雨が降り続け、ほとんど太陽を見る事のない”雨季”が続きます。

このような天候も現地に住む人々の心理にかなりの影響を与えそうです。

水浴嬢役の台湾出身のグイ・ルンメイ(桂綸鎂)やはり中国大陸ではあまり見かけないタイプの女性です。台湾では超人気女優のひとりと聞きましたが、敢えて、ディアオ・イーナン監督が並み居る中国人女優を押しのけて、台湾人を起用した理由はなんだったのでしょうか? この部分は少し疑問として残りました。

本作品前評判では『パラサイト』を超える勢いの大絶賛でした。中国の最底辺に今日も生きる人間の生活を見事に活写してることに間違いはありません。

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最後に

緊張感の連続するサスペンス映画ですが、公安の捜査官のひとりがオートバイに乗って捜査をする際、相当派手な「ベルサーチ」のプリントTシャツを着ていたので、隊長に着替えて来いとたしなめられていました。捜査官は「(本物ではなく)バッタものです」と応えていました。このシーンが本作品中で唯一、笑えるシーンではなかったでしょうか?

最後に主人公チョウが捜査官らに射殺されて横たわっている後ろに捜査官が立ち並び「記念写真」を撮っていました。さすがにこのシーンは少し目を疑いたくなりました。

 

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