内蒙古自治区の呼和浩特(フフホト)からの帰りに山西省大同に立ち寄り雲崗石窟、断崖絶壁に張り付くように建立された懸掛寺を見学しました。
世界文化遺産・雲崗石窟は北魏の5世紀から6世紀にかけてつくられた石窟寺院です。北魏が鮮卑族による異民族国家であった影響で、秦漢の芸術的伝統に加え、中原以外の異民族的エッセンスが融合されているところが見所です。何となく日本の仏像にもその面影が反映されている様な、懐かしさを感じる柔和さを見る事が出来ます。
大同から北京までの350㌔、6時間近く列車に乗って帰りました。
この時の大同駅での光景は一生忘れる事が出来ない程凄まじいものでした。これは筆舌に尽くし難い思い出として今も、鮮明な記憶に残っています。
30年数年前の中国国内は、どこの駅でも多分日常的に繰り返されていた『いつも』の光景だったのでしょうか!?大同駅だけの珍しい光景ではなかったのかも知れません。しかし、われわれ日本人2名が遭遇した現場は「事件」に等しく、びっくりする状況を目の当たりにし本当に仰天しました。
この体験は日本に帰国後、何人かの友人に語り聞かせました。彼らは一様に驚き、呆れていました。一方、今の中国の若い人は、中国の経済発展後の豊かな環境の中で生まれ育ったので、同じ事を話したとしてもまったく理解できないのではないかと思います。
乗客たちは列車が入線する前に改札口を進み、ホームに出て並ばされました。チケットに書かれた車両番号に従い、自分の乗るべき車輛の停車位置にまず先導されます。一車輛につき前後二か所の昇降口があるので、二手に別れて並び指定された位置で列車の入線を待ちした。
待合室、ホームの混雑状況がまさに放牧された牛が、米国映画の西部劇でよく見る様な、前進を急き立てられて犇めく状況と同じです。時間が経過していくと、ホームに乗客が溢れ返り、列車が入線するまでの、わずかな時間とは言え、極めて危機的な大混雑を極めていました。
やがて、速度を緩めた列車が入線すると、停止する前に乗客は各自大きな荷物を抱え、車両のドア目掛けて殺到し始めました。わたし自身も全身に異様な重圧を、後ろの人々から受け始めました。
ホームにいる多数の鉄道職員が必死に乗客を押し返しますが、多勢に無勢でだんだん制止が効かない混乱状態となりました。
列車が停止した瞬間、発生する惨状は阿鼻叫喚の地獄絵の頂点でした! 席を確保する為乗客は自分の荷物を空いている座席目掛けて、窓から投げ込んでいます。中には小さな赤ん坊を荷物と一緒に、窓から座席に放り込みはじめてる人もいました! 人間窮地に陥るとどういう行動にでるか予想も出来ません。
勿論、大同駅で降りようとする客も大勢いましたが、狭い昇降口に下りる客、乗車する客の両者が押し合いへしあい殺到し、乗客同士の押しくら饅頭が始まりました。当然、中国でも下りる客を優先して降ろすべきですが、ここでは乗車しようとする客が下りる客を逆に車輛の奥へ奥へと押し込もうとしていました。
下車しようとしている客はまったく降りられません。
また、乗る人は遅れを取るまいと、必死に前の人の背中にぴったりと自分の身を押し付けて、少しの隙も作らないように、背中にしがみつくように続きます。
わたしが車輛の入口にようやく近づいたところ、目の前の女性の姿が、突然見えなくなりました。ホームと車輛の僅かな隙間から線路の下に転落していました。わたしを含め、乗り込もうとしている周囲の乗客は転落した女性客に手を差し伸べる余裕は全くありませんでした。
生き地獄のような壮絶な状況に興奮冷めやらず、どれほどの時間が経過したか定かではありませんが、長い“死闘”ようやく静まると、まるで何事も無かったかの様な涼しい顔をしてみな席に座っているではありませんか!
線路に落下した女性は出発前になんとか駅員が助け上げられたのだと信じます。怪我をしてなければ良かったのですが…
中国では何度も同じ様に苦い経験をしましたが、この時の大同駅での凄まじさを超える体験はありません。
さらに、わたしは山西省とはよぽど相性が悪いのかどうか分かりませんが、4,5年前に以下の嫌な経験がありました。
(太原での盗難事件)
山西省太原のホテルでの盗難事故に遭いました。業務出張時に起こりました。会社の同僚と二人で同宿したホテルで起きたものです。
朝食でブッフェを利用し、食事が終わったらそのまま部屋に戻らず外出しようと、バッグを食堂に持ち込んでいました。同僚とは時間帯がずれた為一人で朝食を摂りました。食べ物を取りに行く際、うかつにも、財布・パスポートの入ったバッグを席に置放したままにしてしまいました。
私の席の周囲に他の客も何人か食事していた為、彼らの目もあるので、まさかわたしのバッグが被害に遭うとは思いも寄りませんでした。実際の被害は、カバンの中に入れておいた財布から現金のみ2,3千元を抜き取られるという大胆な手口による被害です。
幸いに、財布やパスポート、クレジットカードは抜かれていませんでした。
これはカバンを置きっぱなしにするという自分の不注意・油断に100%の原因があります。まさか、ホテルのレストランで被害に遭うことはあるまいという気の緩みが有ったのです。
当初レストラン内では被害に遭った事にまったく気が付かず、出発には少々時間があったので、朝食後一端部屋に戻り、バッグの中身を確認した時、あるはずの財布の現金が全て無くなっている事に気付きました。
最初これは真夜中、わたしが寝ている間に誰かが部屋に忍び込み、財布から現金を抜き取られたのではないかとも考えました。同じホテルの同僚の意見では、外部から泥棒が部屋に侵入する事もまず有り得ないし、部屋の合いカギをもっている従業員でも、まさかそこまで大胆に客が寝ている部屋に侵入するという行動をする人はいないときっぱり否定されました。
やはり、席の近くのテーブルに座っていた、泊り客を装い食事をしていた人(あるいはグループに?)にバッグを開けて、中身だけ抜き取られた違いありません。
教訓は、中国に限らずどこでも、重要な財布・パスポート類は常に肌身離さず持ち歩くべきと肝に銘じました。油断大敵です。
そんな山西省ですが、決して嫌う事無く、その後も出張・観光の機会が多く、足繁く訪問している地域でした。血沸き肉躍る「三国志」の舞台となった「中原」の地であり、三国志に出てくる地名も山西省内には多く、特に英雄関羽の故郷である「運城」を訪れた時はとても感激しました。
また、世界遺産五台山、平遥古城などの訪問記事は以下ブログを是非ご参照ください。
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