『気狂いピエロ』のあらすじ・概要
ジャン=リュック・ゴダール監督が1965年に発表し、ヌーベルバーグの金字塔的作品として語り継がれる代表作です。「ピエロ」と呼ばれるフェルディナンは、パリで金持ちの妻との退屈な結婚生活から抜け出したいという衝動に駆られていました。息子のベビーシッターとして家に来ていて偶然再会した昔の恋人マリアンヌと一夜を共に過ごすことになります。翌朝、見知らぬ男の死体を見つけた2人は理由がまったく分からないまま、マリアンヌの兄がいるという南仏に向け逃避行を始めます。やがてマリアンヌは世間から隔離された旅生活に飽きはじめ、フェルディナンに嫌気がさし、ギャングと通じてフェルディナンを裏切ってしまいます。
※なお、ヌーベルバーグの広義の意味は、撮影所(映画制作会社)における助監督等の下積み経験なしにデビューした若い監督たちによる、ロケ撮影中心、同時録音、即興演出などの手法的な共通性を持った一連の作品を指します。
本作品はライオネル・ホワイトの小説『Obsession』(1962年)を原作としていますが、他の多くのゴダールの作品と同じく脚本と呼べるものはないらしく、ほとんどのシーンは即興で撮影されたというから驚きです…
2016年にデジタルリマスター&寺尾次郎氏による新訳版が公開され、2022年には2Kレストア版で改めて4月に公開されたものを劇場にて観賞したもの。
原題:Pierrot le Fou
『気狂いピエロ』の監督と主要キャストについて
ジャン=リュック・ゴダール監督:仏パリ出身。ソルボンヌ大学時代、カルチェ・ラタンのシネマクラブに通いはじめ、フランソワ・トリュフォーやエリック・ロメールらと知り合う。1952年から「カイエ・デュ・シネマ」誌に映画評を書くようになり、59年に「勝手にしやがれ」で長編映画監督デビュー。
ジャン=ポール・ベルモンド(フェルディナン・グリフォン=ピエロ):59年「二重の鍵」で注目を集め、同年「勝手にしやがれ」でブレイクを果たした。本作「気狂いピエロ」(65)などでヌーベルバーグの代表的俳優として活躍する一方、「大盗賊」(61)や「リオの男」(64)などの冒険アクションを世界的ヒットに導き、アクション俳優としても開花。盟友アラン・ドロンと共演した「ボルサリーノ」(70)はフランスで500万人動員の大ヒット作品となった。
アンナ・カリーナ(マリアンヌ・ルノワール):ゴダールのミューズでありながら、本作品撮影時ゴダールと離婚したばかりの状況だったという。デンマーク・コペンハーゲン出身。
『気狂いピエロ』のネタバレ感想
脚本無しの映画をどうやって撮るのか良く分かりませんが、主演のふたりが一番苦労したのではないかと思いました。セリフはすべてがアドリブだとか、それでこれだけの映画を完成させる。わたしとかみさんのふたりで劇場で鑑賞しました(初見)。鑑賞後かみさん曰く「なんだか全然意味が判らなかったね!」というのが第一声でした。わたしも「そうだね」と正直に応えました。
見応えとしては若いジャン=ポール・ベルモンド扮するフェルディナンの全身からほとばしるエネルギッシュな躍動感がとても自然体の演技で大変に好感が持てました。アラン・ドロンの整い過ぎた美男子振りとは対極にあり、女性からも男性からも好かれそうな男振りには後々フランスの『国宝級』との賛辞を送られていることも納得です。
彼以上に魅力的だったのが、マリアンヌ役のアンナ・カリーナです。本編途中まではいつも同じ服を着ていました。いつも着ている服はシンプルなデザインで、とても似合っていました。全編アドリブだというセリフの一部に『いつも同じ服ばかりでうんざり・・・』というような彼女自身のセリフがありました。その後突然、かなり頻繁に衣装が変わる様になったのには驚きました。彼女の魅力は何を考えているか良く分からない不可思議な存在感です。南仏にいる彼女の兄は、どうやらアフリカと胡散臭いギャング絡みの『密輸』などを手掛けている様なとても妙な雰囲気でした。
そんな「魅力」溢れるカップルの「逃避行」です。支離滅裂、破天荒…なんとも形容しようのない理不尽な出来事ばかり起こし、少々うんざりさせられる場面もありました。しかし、一部映画解説を覗き見ると壁に張られた絵画・ポスターの一枚一枚、ガソリンスタンドのロゴ(TOTAL)等々細部に「意味」があるらしいのです。何度も良く見て解釈するべき映画だという有り難いアドバイスもありました!(なるほどと納得しましたが、そんなに見る時間はありません)
また、全編に饒舌に語られる詩だったり、日記の様に語られる文章が、映画に独特な雰囲気を醸し出していることは見逃せません。日記を綴る事になんの意味があるのか?最終的な結末を見てしまうと日々の記録は木っ端微塵に吹っ飛んでしまう事になるのですが…
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