『メグレと若い女の死』のあらすじ概要
フランスの名匠パトリス・ルコントが8年ぶりとなる長編映画作品、代表作「仕立て屋の恋」の原作者ジョルジュ・シムノンのミステリー小説の久々の映画化作品。
1953年。パリ・モンマルトルのバンティミーユ広場で、シルクのイブニングドレスを着た若い女性の遺体が発見されます。真っ赤な血で染まったドレスには5カ所の刺し傷がありました。捜査に乗り出したメグレ警視は、その遺体を見て複雑な事件になると直感。遺体の周囲に被害者を特定できるものは一切なく、手がかりとなるのは若い女性には不釣り合いなほど絹の高級ドレスのみ。被害者の素性とその生涯を探るうちに、メグレ警視はこの事件にのめり込んでいきます。
身長180センチ、体重100キロという、原作に最も忠実で大柄な名優ジェラール・ドパルデューがメグレ警視を演じ、「タイピスト!」のメラニー・ベルニエ、「パリ、テキサス」のオーロール・クレマン、「ともしび」のアンドレ・ウィルムが共演。
2022年製作/89分/フランス
原題:Maigret
『メグレと若い女の死』のスタッフとキャストについて
パトリス・ルコント監督・脚本:本作では1950年代のパリを落ち着いた色彩で再現しています。
IDHEC(フランスの高等映画学院)で映画監督になる勉強をしましたが、卒業後にバンド・デシネの漫画家またイラストレーターとして漫画雑誌社で働く。
ルコント作品の劇場鑑賞は今回が初めてでした。
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ジェラール・ドパルデュー(メグレ警視):ミシェル・オーディアール監督『Le Cri du cormoran,le soir au-dessus des jonques』(71)で映画界デビュー。
被害者の女性と同じ年頃の自分自身の娘を亡くしている辛い過去がある為、捜査にも力が入った様子が伺われます。
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ジャド・ラベスト(ベティ):パリに憧れて上京してきた貧しい女性、メグレに救われ住み場所を提供され、殺人事件捜査(彼女には囮捜査とは知らされずに…)に協力する事に。被害者と似通った出自の若い女性役。低く抑えめの声調がとても魅力的。
メラニー・ベルニエ(ジャニーヌ):スターを夢見る女優志望の女性、婚約者は大富豪の御曹司。
『メグレと若い女の死』のネタバレ感想・見どころ
ネタバレ有り。
1950年代のパリ。フランスの田舎からパリに憧れて多くの若い女性が上京してくるところは、日本の東京へ多くの若い男女が憧れるのと似た様な状況なのかなぁと感じました。しかし、運良く明るい人生が待ち受けている人は限られていました…
犯人はだいたい見当がついていたのですが、何故殺されなければならないのか、冒頭ある女性からとても不機嫌な顔をして猛烈な剣幕で、会場から追い出される場面が映し出されます。追い出された若い女性は、その後予想もしなかった惨殺死体となって発見される事になります。
名前、素性も一切分からない状況からどのように犯人捜査の手掛かりを掴む事が出来るのか、メグレ警視の活躍に大いに期待が膨らみました。
地道な捜査により、検死官の報告、目撃者の証言、着ていた高級ドレスの製造元、レンタル衣装の貸し出し店、被害者女性が住んでいた住居、暫く同居していた女優志望の女性などなどの参考情報が積み重ねられていく展開は実に見事。パズルの空いたマスが一つずつ埋まって、真犯人発見に一歩一歩近付いて行く様子が緻密に描かれていきます。
一方、メグレ警視の捜査は、感情の起伏を抑えて、参考人が嘘をつこうが、隠し立てをしようが、表情を崩さず、すべてを一旦腹に呑み込み、冷静な捜査を続けるところが見どころの一つとなっていました。
事件の核心は、大富豪の御曹司のとんでもない”性癖”が大きな要因になっていました。それもメグレ警視の単独判断により、かなり危険極まりない囮調査によって明らかになって行きます。(メグレは田舎から女性ベティに対して、危険な目に遭ったならなんでもっと早く逃げ出して来なかったのかと質問していました。遅れたには他の理由があった様です…)
「髪結いの亭主」「仕立屋の恋」などの色っぽい場面は今回は期待できませんが、ジェラール・ドパルデューの存在感の大きさ、うす曇りのパリの情景、セーヌ河畔(意外に急流)の美しい佇まいなどなど見るべきところはとても多いです。
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