『青いカフタンの仕立て屋』のあらすじ概要
カサブランカの路地裏を舞台にした前作「モロッコ、彼女たちの朝」のマリヤム・トゥザニ監督が、モロッコの伝統衣装カフタンドレスの仕立て屋を営む夫婦の愛と決断、そして人生をありのままに生きることの“難しさ”を問いかけるヒューマンドラマ。
海沿いの街サレの路地裏で、母から娘へと受け継がれる伝統的なカフタンドレスの仕立て屋を営む夫婦ハリムとミナ。職人気質のハリムは伝統を守る仕事を愛しながらも、自分自身は伝統からはじかれた存在であることに苦悩していました。25年間連れ添った妻ミナはそんな夫を理解し支え続けてきましたが、病に侵され余命わずかとなってしまいます。そんな彼らの前にユーセフという若い職人が現れ、3人は青いカフタン作りを通じて絆を深めていきます。ミナの死期が迫る中、夫婦はある決断をします。
「灼熱の魂」のルブナ・アザバルが妻ミナ、「迷子の警察音楽隊」のサーレフ・バクリが夫ハリムを演じた。2022年・第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、国際映画批評家連盟賞を受賞。
なお、カフタンとは結婚式や宗教行事などフォーマルな席に欠かせない伝統衣装で、コードや飾りボタンなどで華やかに刺繍されたオーダーメイドの高級品。母から娘へと受け継がれる着物のような存在ですが、安価で手早く仕上がるミシン刺繍が普及した現在、手間暇かかる手刺繍をほどこすカフタン職人は貴重な存在となっています(「青いカフタンの仕立て屋」公式HPより)
2022年製作/122分/フランス・モロッコ・ベルギー・デンマーク合作
原題:Le bleu du caftan
『青いカフタンの仕立て屋』のスタッフとキャストについて
マリヤム・トゥザニ監督・脚本:モロッコ・タンジェ出身の映画監督(女性)『モロッコ、彼女たちの朝』(19)で長編監督デビュー。数々の映画祭で多くの賞を受賞し20カ国以上で公開された。長編2作目となる本作でも、前作に続き、アカデミー賞国際長編映画部門モロッコ代表に選ばれています。
ルブナ・アザバル(ミナ):ベルギー・ブリュッセル生まれ。仕立屋の夫を支える妻、病に冒されており、食欲が余りありませんが、新鮮なタンジェリン(小粒のみかん)を好む。死期迫るミナを体現するために過酷なダイエットを行い、最期の瞬間まで夫に愛と勇気を捧げる妻を熱演しています。
➢おすすめ映画|『ワールド・オブ・ライズ』(2008/リドリー・スコット監督)レオナルド・ディカプリオ主演サスペンス・アクション映画
サーレフ・バクリ(ハリム):一切の妥協を許さない厳格な職人気質の腕利きのカフタンの仕立屋。
アイユーブ・ミシウィ(ユーセフ):腕の良い若手の職人。本作が映画初出演。
『青いカフタンの仕立て屋』のネタバレ感想・見どころ
今では数少ない伝統工芸品、手作りのカフタンの仕立屋夫婦の生活を描いたヒューマンドラマ。現在手掛けている作品は自分でも生涯一の”傑作”と語っていました。手間暇をかけ過ぎて一着仕上げるのに数か月を要する場合もあるという話です。現在ではミシン縫いなどが普及し始め、伝統技を継承する職人はどんどん少なくなっているとか…職人ハリムは依頼主から矢継ぎ早の催促を受けます。しかし、彼は全く動じることなくマイペースの仕事に終始します。それを十分理解している妻のミナは、依頼主に納期が気に入らなければ手付金は返還するというきつい言葉で抵抗していました。
「カフタン」という衣装がある事を初めて知りました。大変貴重な衣装で結婚式などの重要な儀式などに着用するものです。母から娘に引き継がれていくものと言います。どれだけ貴重な物かはモロッコ人でないと分からないかも知れませんが、映画の中で見る限り、目の覚めるような美しいシルクの生地、金糸を使用したきめ細かい刺繍、ボタンなどなど、一針一針の職人の熟練技で仕上げられていく様子も映画の中でじっくり描写されていきます。
大変仲の良いおしどり夫婦のふたりに、妻の不治の病が暗い影を落としていました。それでも妻の体調の良い時はミントティーを飲む為にカフェでサッカー観戦したり、新鮮なタンジェリンを買う為に市場に立ち寄ったりするささやかな日常風景、近所の店から大音響で聞こえて来る音楽に合わせて踊ったり(肩を小刻みに動かす)、モロッコを料理に舌鼓を打つシーンなどなど、これらは後々病状も悪化して外出が難しくなると、大変貴重なものだった事に気付かされます。
監督マリヤム・トゥザニが女性であることは、本編を見終わった後に知りました。長編映画2作目でこれ程の完成度の高い作品を作り出す実力にびっくり仰天しました。また、男性とは違う、女性の視点から見る「男」という存在についても考えさせられる部分も多々描写されていました。
今後も当分目が離せない監督の一人です。
コメント