結論から言う。本作は傑作のリメイクとして見れば、はっきり失敗作だ。だが、「金持ち詐欺の教科書」として見れば、妙に出来が良い。皮肉な話である。
舞台は南仏リビエラ。物語はシンプルだ。エレガントで完璧な詐欺師ジョセフィーヌ(アン・ハサウェイ)と、泥臭くて下品な成り上がり詐欺師ペニー(レベル・ウィルソン)が、天才IT長者を巡って騙し合う。元ネタは1964年「ベッドタイム・ストーリー」、そして1988年の名作「ダーティ・ロッテン・スキャンドラルズ」。女性版に置き換えただけで、オチも含めてほぼ丸写し。批評家が怒ったのは当然だ。興収は予算2100万ドルに対し9740万ドル、ロッテントマトは13%とボロクソだが、4倍以上回収してちゃっかり黒字という、詐欺師のようなちゃっかりさも本作らしい。
見どころは3つある。
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衣装が演技より雄弁。金持ち詐欺は布で決まる
衣装のエマ・フライヤーは、「オーシャンズ」級にスリックで豪華と評された実力派だ。本作での仕掛けは露骨だ。ジョセフィーヌには貴族のような完璧でカラフルなパンツスーツを。対するペニーには、わざとダサいTシャツにジーンズ。限られた予算で「世襲の富」と「成り上がりの貧」を一瞬で分からせる狙いは見事。だが裏を返せば、衣装以外で二人の格差を描けていないということでもある。
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なぜ南仏は“詐欺師の聖地”なのか
18世紀末、霧と石炭で真っ暗なロンドンから逃げた英貴族が冬の保養地として“発見”したのが始まり。ビクトリア女王が毎冬訪れ、戦後はカンヌ映画祭とモナコのカジノが富を呼び寄せた。今やテイラーもバルドーもジャガーもベッカムも別荘を持つ。1軒200億が普通、ニース空港はプライベートジェットで渋滞する。
金が集まれば、当然ハイエナも集まる。フランスの統計でも、コートダジュール地方の詐欺被害は年数十億円規模、被害者の8割が「60代以上の外国人男性富豪」という。孤独で、英語しか通じず、税金対策で住民票だけ移している。そりゃ狙われるワケだ。
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なぜ超美女ではなく“地味な女”に騙されるのか。これが一番エグい
本作の核心はここにある。富豪が引っかかるのは、セクシーな美女ではない。ペニーのような『母親・秘書・看護師型』だ。40代、50代の地味で真面目そうな女が「あなたの健康が心配」と家政婦として入り込み、食事から財産管理まで掌握し、遺言書を書き換える。南仏では毎年裁判沙汰になっている現実の手口だ。
富豪の脇の甘さは「保護欲」にある。「私、騙されてお金を取られたの、助けて」と泣きつけば、金持ちの自尊心はくすぐられる。「孤独な金持ちの隙間に入る」のが一番危険な詐欺師なのだ。
よく「富豪なら、はした金を騙し取られても痛くないだろ」と言う人がいる。それが大間違いだ。彼らが壊れるのは金の問題ではない。
① 自尊心の崩壊。 何十億も稼いだ“俺は賢い”という自己像が、「地味なおばちゃん」に騙された瞬間に粉砕されてしまう。
② 人間不信の牢獄。 家族はパリやロンドン。そして広い別荘にたった一人。家に入れてくれる家政婦に裏切られたら、もう誰も家に入れられない。200億の別荘が、ただの豪華な独房になる。
③ はした金で終わらない。 最初は100万。次は1000万。気づけば別荘丸ごと取られてしまう。
だから本作のギャグが古くて下品で笑えないのは致命的だ。監督は英人気ドラマ「Veep/ヴィープ」のクリス・アディソンで映画初監督。風刺の切れ味は期待されたが、演出は完全に迷子。アン・ハサウェイ自身が「やりたくなかった」と漏らしたという不自然なイギリス訛りも、笑いを削ぐ。
結局「ザ・ハッスル」は、コメディとしては二番煎じの失敗作。だが、南仏という装置と、男のプライドの脆さを突く詐欺の構図だけは、ロッテントマト13%(上映開始当時は0%スタート)という数字以上に、妙に現実をえぐっている作品と言える。
アン・ハサウェイ出演作品:
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