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『ザ・ボス 世界で一番お金が好き!』考察:笑えないほど怖い、厚かましい女の話

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2016年の映画『メリッサ・マッカーシー in ザ・ボス 世界で一番お金が好き!』原題 The Boss を観ました。
第一印象は「ハチャメチャ過ぎる」「汚い言葉の連発」。でも観終わった後に残ったのは、笑いよりも寒気でした。

あらすじ

金融界の女王ミシェル・ダーネルは、インサイダー取引で服役し一文無しに。行くあてもなく、元部下クレアの家に転がり込みます。
好意で居候させてもらっている立場なのに、感謝どころか「この家は狭い、ダサい、居心地が悪い」と罵詈雑言。娘のガールスカウトのクッキー販売を乗っ取って再起を図るという、恩を仇で返すような厚かましさ。
その神経が信じられない。でも、なぜか最後まで観てしまう。

2016年という、微妙な年の映画

この映画が公開されたのは2016年4月。全米初登場1位で2358万ドルを稼ぎましたが、これは閑散期の1位。前週の『バットマン vs スーパーマン』が失速した隙をついた数字でした。最終的に日本では劇場未公開、DVDスルー。
つまり、アメリカでも「大ヒット」ではなく「メリッサ・マッカーシーならとりあえず観るか」というブランドで持った作品です。
そして2016年といえば、トランプ大統領が当選した年。傲慢な億万長者が汚い言葉で相手を黙らせる姿を、ニュースでも映画でも同時に観ていた年だったと思うと、笑えなくなります。

考察1:クレアの菩薩観音ぶりが、ミシェルの悪辣さを際立たせる

この映画のキャスティングで一番上手いのは、クレア役にクリステン・ベルを置いたことです。
彼女は『アナと雪の女王』のアナの声の人。アメリカでは「世界一善人そうに見える女優」です。何を言われても怒らず、常に微笑む菩薩のような存在。
だからこそ、ミシェルの悪辣さが際立つ。
• 家も寝るソファーも貸してやっているのに文句を言われる
• 娘をダシに使われる
• それでもクレアは文句を言わず耐える
観客は自然とクレアに感情移入し、「ミシェル、いい加減にしろ!」となります。もしクレアがもっと強い女性だったら、ただの口喧嘩映画で終わっていたはず。この対比構造が、この映画をかろうじてコメディにしています。

考察2:ミシェルの目が怖い。正体は怯えだった

笑えるのに、ミシェルの目だけが笑っていない。観ていてずっと怖かったんです。
口ではFワードを連発して威張っているのに、目は常に相手を値踏みし、「いつ裏切られるか」と怯えている。
ミシェルは5歳から孤児院と里親を転々としたという設定です。優しくされることが怖いから、先に罵倒して相手を遠ざける。あの厚かましい居候の態度も、実は「捨てられる前に自分から捨てる」という防御本能だったのかもしれません。
メリッサはコメディ女優なのに、目で芝居をする人です。ドタバタで笑わせた直後に、ふっと真顔になる瞬間のあの目は、完全にホラーでした。

考察3:なぜ首が見えない?ハイネックの謎

全編、ミシェルはハイネックしか着ません。「手術痕を隠してるの?」と思ったのですが、違いました。
これは脚本も担当したメリッサ本人と衣装デザイナー Wendy Chuck の共同アイデアで、「権力と気取った感じ」「必死に着飾ってる滑稽さ」を表現するための衣装だったのです。キラキラ、巨大リボンと合わせて、わざと大げさに。
つまり、彼女が隠したかったのは首のシワではなく、あの怯えた目と、孤独だったのかもしれません。

考察4:脚本もメリッサ自身。だから誰も止められなかった

本作の脚本は、監督のベン・ファルコーン(実の夫)、スティーヴ・マロリー、そしてメリッサ・マッカーシー自身の共同執筆。元々は彼女が即興劇団時代に演じていた持ちネタキャラでした。典型的なところは、クレアのブラジャーがどうとか、ミシェルが自分の胸の話を延々とするところ。あれ、完全にメリッサと夫ベン・ファルコーンの悪い癖、即興(インプロ)出身だから、一度面白いと思ったネタを自分たちで止められない。
脚本も3人で書いてるけど、現場ではほとんど即興で「もっと汚い下ネタいけるでしょ」で盛り上がって、監督である夫が「カット」をかけられないという。だから批評家からも「ギャグが一貫してなくて、同じ下ネタをしつこく繰り返す」と酷評されたんです。  本当は、「孤児育ちで女性としてのロールモデルがいなかったミシェルが、初めて女性同士の会話をする」という大事なシーンのはずが、汚い言葉で尺を取りすぎて、肝心のエモい部分が完全に霞んでいる。だからこそ、ある意味では純度100%のメリッサ映画です。

まとめ:言葉の暴力と殴り合いの暴力は同質

トランプ大統領の言葉の暴力、権力を笠に着てやりたい放題する姿は、殴り合いの暴力と同質だと感じました。この映画のミシェルも同じです。言葉で相手を黙らせ、立場を利用して好き放題する。時には暴力でねじ伏せる。そのやり方は、暴力的で、相手から反撃の選択肢を奪います。もちろん、ちょっとオーバーな笑えるコメディとして観ることもできる。でも、2016年という時代の空気を思い出すと、これはもうコメディではなく、予言の映画だったのかもしれません。
こんな人におすすめ
• 下品なコメディでも笑える人
• 『SPY/スパイ』が好きだった人
• メリッサの「怖い目」の演技を観たい人
苦手な人は注意
• 汚い言葉、パワハラ描写が苦手な人は本当に無理だと思います。

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