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『失うものさえなく』感想|テーマは最高、穴はスウェット並みにデカい勿体ない映画

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Netflixフランス発のスリラー『失うものさえなく(原題: Jusqu’au bout)』を観た。
元ボクシングチャンピオンのシングルマザー・ジェイドが、白血病の息子を救うため暴走する99分の物語。テーマは重く、泣けるはずなのに、観終わった後に残ったのは感動より「おいおい」の連続だった。
一言で言うと、素材は最高級なのに、大きな穴がぽっかり空いたスウェットみたいな映画だ。

良かった点:テーマは今、語るべきこと

物語は、胚提供(第三者の受精卵提供)で授かった息子ノアが白血病になり、骨髄移植が必要になることから始まる。
フランスの精子・胚バンクCECOSは、法律上の個人情報守秘を理由に、同じ受精卵から生まれた“遺伝的な兄弟”の情報を一切教えてくれない。ドナー登録は足りない、適合者は見つからない。その絶望は、日本でも同じだ。
「個人情報より、人名=命が優先されるべきじゃないのか」という監督の問いは、2021年に生命倫理法が改正されてもなお匿名性が根強いフランスだからこそ重い。ここは本当に刺さる。

ツッコミどころ1:医療が片手落ち

最大の違和感は、骨髄バンクの存在がほぼ皆無なことだ。
現実なら、まず世界中のバンク網(フランスならFrance Greffe de Moelle)で数千万件を検索し、ダメなら臍帯血やハプロ移植を検討する。胚提供の兄弟に賭けるのは、あらゆる手を尽くした最後の希望のはず。
なのに映画では、いきなり「救いの手は受精卵提供者だけ」に絞られる。医師もバンクの話をしない。だから「他にやることあるでしょ?」と冷めてしまう。リアル感を出すなら、母親が数ヶ月待ち続ける“考える時間”の描写が絶対に必要だった。

ツッコミどころ2:母親の行動が衝動的すぎる

元チャンプという設定を活かしたいのか、ジェイドはとにかく体が先に動く。夜中にCECOSに忍び込み、倉庫のドアをけ破って侵入しファイルを漁るシーンは、もはや強盗だ。
これをやれば前科がつき、CECOSは余計に情報を出せなくなり、息子に付き添う時間すら失う。目的から一番遠い行動をしている。
役所の窓口の「規定ですので」「お気持ちは分かりますが」という他人事な態度にはイラつくし、改善は必要だが、だからといって強盗はダメだ。弁護士、患者会、メディアと、合法的な手段を全部潰された末の犯行として描けば、「追い詰められた」と共感できたのに。挙句の果てに特殊部隊まで出動する事よくわ態に発展、機転を利かせて見事に脱出するが、母の愛はそこまで強いことはよくわかるが行動そのものは驚天動地、結果良ければすべて良しとはならないだろう…

 

ツッコミどころ3:父親の不在が謎すぎる

もう一つ、ずっと引っかかったのが父親ポールの存在だ。
夫婦は子供が1歳の時に離婚。その後、父親は1年に2回しか子供に会わない。パイロットで多忙と言われても、離婚理由の説明はゼロ。
1歳は一番可愛い盛りで、一番手がかかる時期だ。自分の遺伝子が繋がっていなくても、生まれた笑顔を見れば「一緒じゃないか」と思うのが親の感覚ではないか。わだかまりを持つものなのか、正直よく分からない。
おそらく脚本は「胚提供をめぐる夫婦の亀裂」を描きたかったのだろうが、それなら「あなたは抱っこすらしなかった」という一言があれば、ポールは薄情な父親ではなく、傷ついた不器用な父親になれた。空白にしたせいで、後半の“家族の再結集”が薄まってしまった。

結論:勿体ない

言いたいことはよく分かる。CECOSの硬直性も、母親の狂気的な愛も、描きたいことは尊い。
でも、小児白血病の治療という繊細なテーマを扱うなら、もう少し現実に即した対応策の積み重ねが欲しかった。穴を丁寧に縫っていれば、間違いなく泣ける傑作になれたはずだ。
だからこその「勿体ない」。観る価値はあるが、スウェットの穴を気にしない覚悟で観てほしい。

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