最初は本当に偶然だった。
コスメの「リップ」を検索していたはずなのに、検索結果に「RIP」という文字。何だろうと開いたら、Netflixの新作映画だった。しかも主演がベン・アフレックとマット・デイモン。『グッド・ウィル・ハンティング』以来の親友コンビが、マイアミを舞台にした汚職警官ものだという。これは観るしかない。
1回目は正直、置いていかれた。銃撃戦は凄い。でも誰が敵で誰が味方なのか分からない。セリフは警察用語ばかりで説明も少ない。観終わった後は「誰が生きて誰が死んだ?」とモヤモヤだけが残った。
悔しくて2回目をつい最近観直した。そこでやっと、この映画が何を描きたかったのかが分かった。私なりに整理した7つのポイントを、ネタバレありで書き残しておく。
警察署内部で誰も信じられない状況が生まれている
この映画の怖さは、マフィアでもカルテルでもない。同じバッジを付けた仲間を疑わなければいけないことだ。
TNT(タクティカル・ナルコティクス・チーム)は本来、家族のようなチームのはずだ。だが、隠し家で2,000万ドルという途方もない現金を見つけた瞬間から空気が一変。
リーダーのデイン・デュマースは全員の携帯電話を取り上げ、上司への報告も遅らせる。昨日まで背中を預けていた仲間が、一瞬で「もしかしたらコイツが金を盗むのではないか」という疑いの対象になる。
誰かが少しトイレに立つだけで、誰かが少し黙り込むだけで、「何か隠しているのか?」と思ってしまう。同じ制服、同じバッジなのに、隣にいる人間が一番信用できない。あの狭くて蒸し暑い一軒家の中に充満する息苦しさは、アクション映画の緊張感ではなく、正に人間関係が壊れていく音だった。
署内でも上司が何者かに殺害されているという恐ろしい状況
物語は始まって数分で、TNTのトップであるキャプテン・ジャッキー・ベレスが何者かに射殺されるところから始まる。
彼女はデインにとっては尊敬する上司であり、J.D.にとっては愛する恋人だった。チーム全員にとって母親のような存在だった彼女が殺される。普通ならチーム一丸となって犯人を追うはずだが、TNTは利害関係者として捜査から外されてしまう。
犯人が分からない。しかも犯人は内部にいるかもしれない。そんな状態で、彼女の死を悼む時間すら与えられずに次の現場に出動させられる。冒頭から彼らのバッジに付けられた黒いテープが、その喪失感をずっと物語っている。
予想外の巨額の隠し資金が見つかるが、運び出す手段がない
現場はデシという若い女性が一人で住む、普通の一軒家。住人の祖母が残した家だという。
当初、情報は「15万ドル程度の小口のヤマ(リップ)」だった。ところが警察犬が壁に反応し、壁を壊すと中からバケツに入った札束が次々と出てくる。数えてみれば2,000万ドルを超える巨額の隠し資金だった。
金はある。でもどうやって運び出すのか?デインはわざと全員に別々の車で来させ、携帯を取り上げ、外部との連絡を絶つ。上司にも連絡しない。外には「危険が迫っている」という謎の電話もかかってくる。
金があるのに、誰にも知られず安全に運ぶ手段がない。助けを呼べない。外は暗く、家の中は暑く、時間だけが過ぎていく。この「運べない」という状況が、観ているこちらまで不安にさせる最高の仕掛けだった。
善人の警察官でも巨額の現ナマを目の前に目がくらみ、悪人の考えが思い浮かぶ恐ろしさ
この映画が一番描きたかったのはここだと思う。
デインは実は、現場に向かう前に隊員一人ひとりにわざと違う金額を伝えていた。「15万ドルだ」「20万ドルだ」「25万ドルだ」と。誰がその情報を外部に漏らすかを確認するための罠だった。
画面では善人として描かれている警官たちの顔に、一瞬だけ欲がよぎる。善人でも、目の前に2,000万ドルの現金が無造作に置かれていれば、「この金を少しだけ持ち帰れば人生が変わる」と考えてしまう。
それは決して特別な悪人の発想ではない。普通の人間が、現ナマを目の前に(しかもマフィアが悪事で儲けた金)普通に持ってしまう弱さだ。バッジを付けていても、家族がいても、ローンがあっても、その弱さは消えない。その人間の弱さを、ジョー・カーナハン監督は容赦なく映し出していた。
マフィアですら現ナマの取り返しを簡単に諦める。裏側には何があるのか
観客は当然、「この大金はカルテルのもので、彼らが武装して必死に取り返しに来る」と思って観る。私も1回目はそう思った。
ところが本編で、偶然出会ったカルテル側の人間がこう言うのだ。「あの金は商売上の損失だ」と。
彼らにとって2,000万ドルは確かに大金だが、それ以上に警察署を襲撃して戦争になる方がリスクが高い。だから彼らはあっさりと諦める!
では、夜通し家を取り囲み、銃を撃ち込んできた武装集団は誰だったのか?実はそれはカルテルではなく、警察内部の汚職警官たちが雇った民間軍事会社のような連中だった。金はマフィアのものではなかった。警察の裏切り者が、仲間から奪おうとしていた金だったのだ。このどんでん返しには鳥肌が立った。
マット・デイモンとベン・アフレックは、内部犯行犯の尻尾を捕まえようと最初から画策していた
最大のネタバレであり、この映画の本当のテーマだ。
デインは、キャプテン・ベレスが殺される直前に、彼女から「隠し家の住所」が書かれたメッセージを受け取っていた。しかし自分は捜査から外されているため動けない。だからこの「リップ」を利用して、内部の裏切り者を炙り出す作戦を立てたのだ。
真犯人は、チーム内のマイク・ローと、DEAのマティ・ニックスだった。2人は以前から犯罪現場の金を盗む「裏の強盗チーム」を組んでいた。キャプテンのベレスがそれに気づいたため、ローが最初に撃ち、ニックスが最後の一発で彼女を射殺した。
デインの計画を知っていたのはデインただ一人。親友であるJ.D.でさえ、最後の装甲車の中まで知らされていなかった。だからJ.D.の「お前が裏切り者なのか?」という疑いの演技は本物だった。親友を疑わなければならない苦しさが、あの表情に出ていた。
最後は装甲車の中で真実が明かされ、銃撃戦の末、ローは取り調べのために逮捕、ニックスはJ.D.が射殺する。金は正規の手続きで押収され、何も知らなかった家主のデシには、通報への謝礼として報酬が渡される。
これは上司と恋人の仇を、法の中で取ろうとした2人の復讐劇だったのだ。
最後にバッジから黒いテープの喪章をはがすクライマックス。これが最高だった
日本人視聴者はほぼ意味が分からないと思う。私も最初は「何をしているんだろう?」と思った。
アメリカの警察には「モーニングバンド」という習慣がある。同僚が殉職した時、バッジの真ん中に黒いゴムバンド(喪章)を付けるのだ。哀悼の印であり、まだ事件が終わっていないという合図でもある。
映画の冒頭から、TNT全員のバッジにはこの黒いテープが付いている。ベレスの死を悼む喪章だ。
そしてラスト。全てが終わった後。犯人は捕まり、仇は取った。殺害の真相も明らかになった。
その時、デインとJ.D.が浜辺で無言で、静かにバッジから黒いテープを外す。セリフは一言もない。ただテープを外し、ポケットにしまうだけの5秒。
でもそこに「やっと終わった」「やっと彼女を送ってやれた」という安堵感と、長い喪が明けた瞬間の空気が全部詰まっている。
アメリカでは同僚の葬儀が終わるまで付けるものだが、彼らにとっての葬儀は、仇を取り、真相を明かすことだった。やっと喪が明けたのだ。
銃撃戦よりも、この何気ない仕草の方が100倍泣けた。2回観たからこそ分かる、最高のラストシーンだった。
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