弟は二口で食べた。物々交換でやっと集めた材料で、パン屋に焼いてもらった白いパンを。
1945年、島に物資なんてなかった。魚の日干しの手伝い、島を渡り必死の思いで手に入れた砂糖など小麦粉を手に入れた。そうやって集めた材料で、できたのは白パン一つ。それだけだった。
本作鑑賞の体験談
舞台は戦中ドイツ、北海の小さな島。干潮になると海が引いて道ができ、満潮になるとすべてが海に消える。
第二次大戦の戦時下であることを象徴するような、爆撃機の大編隊が2人の少年の頭上すれすれに飛来するシーンはさすがにびっくり仰天。爆弾らしきものを2個落としていきます。しかしながら、本物の爆弾はこんなちっぽけな島に落とす必要は無いことは少年たちはよく知っていました。爆撃機が飛び去ると島には何時ものように何も変わらない平和なシーンに戻ります。彼らはジャガイモの種芋の植え付けに精を出し、報酬として牛乳と食料をもらって家に帰る平和なシーンが続きます。
ドイツが降伏する直前のドイツの小さな小島(村)での日常を描いています。もちろん敗戦という不穏な影は日々差し迫ってきますが、少年ナニングの関心は、故ヒトラー総統の崇拝者であり、出産後体調を崩し、何も食べなくなってしまった母親が好きだという「白パンにたっぷりのバターと蜂蜜」を食べさせ元気を取り戻して欲しいという一心です。文字通り命懸けの行動を起こしていきます。バターもはちみつも物々交換によりどうにかこうにか手に入れる過程の涙ぐましい努力が描かれます。最終的に小さいながらも母親の目の前に差し出すことは出来たのですが、ところが焼きあがったパンは驚くほど小さいものでした。ちょっとした隙に彼の弟に横取りされ全部食べられてしまうというオチには泣かされました。彼は弟を怒りに任せ殴りつける気持ちもよく理解できます。一方、空腹で耐えられずつい口に入れてしまった弟の気持ちもよくわかります。もしかすると幼い妹と山分けしたのかもしれませんが…
戦争こそが、少年ナニングが直面する世の中の理不尽すべての原因であることを、この映画のあらゆるシーンで語っているのではないかと感じました。アキン監督が描く戦争映画、なかなか興味深い映画です。
なお、わたしの大ファンであるダイアン・マクレガーが農場主テッサ役で出演しています。「戦争はもうすぐ終わる」という発言を、ヒトラー礼賛者であるナニングの母親に知られナチスに密告されるが、決した怯むことのない、肝っ玉農場主ははまり役でした。
『白いパンと独裁者』の各シーンの考察
メルヴィルの小説「白鯨」
白鯨が象徴するものは、追いかけても一生捕まらないもの。ナニングが追いかけて母親に食べてもらおうとしたけど結局食べさせることが出来なかった。あまりに小さく、一瞬で消えてしまったもの。戦後のドイツ人が求めた「普通の暮らし」そのものだったということ…
また、ナニングの祖先八代がこのアムルム島に住み捕鯨を生業としていたというシーンが出てきます。そんな中、蔵書の中の一冊「白鯨」を友人に貸し与えます。
小さい白いパン
白パンの材料の小麦が不足していた。庶民はライ麦パンなどの黒いパンを常用、小麦は兵士用に供出されたため非常に貴重品でした。砂糖を得るために干潮の浅瀬を渡り隣の島まで出かけていますが、帰りは満潮となりほぼ水没し、自転車も帽子も失うという危険な目にあいますが、手に入れた砂糖ツボは濡らさないように必死に掲げているところが涙ぐましい…
原材料になるものを手に入れる為、お金ではなく物々交換用の品々を努力して次ぐ次に手に入れていきます。
海と命のルールを知る漁師の爺さん
「干潮の時間は命だ。間違えるな」これほどこの島での干満の時間を知ることは重要な事でした。又,潮の急激な流れも非常に危険で移民の少年が流されそうになったのをナニングは助けます。
爺さんはナニングが捕まえてきた野兎の捌き方を教えます。実際にやって見せ教えるのではなく、言葉で説明し、いきなりナニングにナイフを使って捌かせるというスパルタ式でした。
アザラシの捕獲シーンがありました。真偽はわかりませんが、あんなに簡単な方法でアザラシを誘い込むことが可能なのか?それともアキン監督の遊び心かもしれません。
東プロイセンから流入者
1945年、東プロイセンから逃げてきた人々で島は溢れていました。配給は足りず、米軍からの支援品が大変貴重でした。そんなわけで、ナニングが通りかかると暴力で食料を取り上げられてしまうシーンがありましたが、飢えていた食料難の彼らの状況も理解してあげないと可哀そうな気がしました。
最後に、ナニング一家が島を去る別れ際に移民の少女が首に下げていた琥珀の首飾りを手渡されるシーンは言葉少ないシーンでしたが、「忘れないでね」と無言で語っていようでした。琥珀は東プロイセン=今のポーランド/ロシア領カリーニングラード周辺(世界一の琥珀の産地)、移民の少女が故郷から持ってきた唯一の宝物です。それをナニングに渡すシーン、「故郷そのものを託す」ということに感激…
ナニングは大人になった現在もずっと大事に琥珀の首飾りを持っていると思います。琥珀を受け取ることで少年から大人になった記念すべき一瞬をラストで目撃します。
アキン監督の他作品の感想➢
おすすめ映画感想『女は二度決断する』(2017/ファティ・アキン監督)‣実話から生まれたサスペンス、絶望のどん底で彼女が決意したこととは!?
おすすめ映画『ソウル・キッチン』(2009/ファティ・アキン監督)感想‣レストランを経営しているオーナーシェフが、不動産屋に土地を狙われ、乗っ取りの危機に立ち向かう姿を描くコメディー


コメント