「明日へのチケット」のあらすじと概要
「木靴の樹」のエルマンノ・オルミ、「桜桃の味」(他に『友だちのうちはどこ?』(1987年)、『そして人生はつづく』(1992年))のアッバス・キアロスタミ、「麦の穂をゆらす風」のケン・ローチら、いずれもカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールの受賞経験のある3人の巨匠による奇跡のコラボレーションを果たしたヒューマンドラマ映画。
ローマ行きの特急列車に偶然乗り合わせた、人種も階級も職業も異なる人々が織り成す人生模様を描く3部作。オムニバス形式ではなく、3つのエピソードはそれぞれ独立した物語形式、終着駅ローマに到着するまでに完結するひとつの長編作品になっている。
第一話:オルム監督の短編 初老の大学教授が手にしたチケット。彼はオーストリアへの出張からローマに帰る飛行機が全便欠航となり、仕事相手である企業の女性秘書に便宜を図ってもらい、インスブルックからの列車のチケットを手配してもらった。列車はテロ対策の車両点検で1時間以上も遅れての発車となった。ホームでチケットを手配してくれた女性秘書との短い会話から、教授の胸には忘れ掛けていた恋心がほのかにわいてきている。車中でそんなときめきの余韻に浸っていた教授の前に、テロ対策で急遽同じ車両に乗り込んできた軍の司令官が座る。かすかな夢想の余韻から急に現実に引戻されてしまう教授の姿を追う…
第二話:キアロスタミ監督の短編 夫であった将軍の葬儀に参列する未亡人と、彼女の世話係りの任務(兵役奉仕)につく青年とのふたり組の乗客。傲慢で、自分勝手で完全に自己中心的で、人に命令するしか知らず、半生を人に頼り切って生きてきた将軍未亡人に、生きていく為には厳しい「自立」が必要であることを思い知らせるチケットか。
第三話:ローチ監督の短編 イギリスからローマへ、サッカー観戦にやってきた労働者階級(スーパーの店員)の青年たちと、ローマに出稼ぎに来ている父親を頼ってアルバニアから数多くの危険を冒し脱出した一家が車両で隣り合わせる。日頃、社会にまったく関心がなかったサッカーファンの青年たちに、さまざまな人種とつながる世界がある事に眼を向けさせた移民問題を、自分たちの身近な社会問題として認識させたチケットである。
「明日へのチケット」のネタバレ・感想
ストーリーとテーマについて
オルミ監督の『木靴の樹』を以前札幌で見たのはわたしが大学生の頃でした。本作品では、主人公の感情表現に非常に細やかな作り込みがあり、味わいのある短編に仕上がっていますが、残念な事にとても短い作品です。
イラン人キアロスタミ監督の作品は最近2,3作見ていますが、いずれもイラン国内で撮影され、現地の人々の生活を丹念にカメラで追っている作品が多かった様に思いますが、今回は全く異なり、将軍の未亡人という傍若無人な、わがままでどうにも手の付けようの無い、嫌われ者中年女性を描写しています。乗り合わせた乗客も、同行している世話人の青年にも愛想を尽かされます。最終的には、下車駅で独りぼっちになってしまい可哀想な気もしますが、これは身から出た錆、自業自得でしょう。
ケン・ローチ監督の作品は、いつもの監督らしくアルバニアからの移民問題を取り上げています。無銭乗車した上、車中で他人のチケットを盗んで列車に乗らざるを得ない悲惨な家族の状況を切々と描写しています。
三者三様の物語が同じ列車内で同時進行しているという、面白味はありますが、ほとんどのストーリーは独立した作りとなっています。どこかで、登場人物同士が会話するとか、接触して物語の展開の方向が変わるとかする場面もあれば、もっと楽しる作品になっていたかも知れません。
キャラクターとキャストについて
監督: エルマンノ・オルミ/アッバス・キアロスタミ/ケン・ローチの3巨匠のコラボ作品
オルミ監督:1931年イタリア生まれ、2018年没。1978年、ベルガモ地方の農民たちの生活をドキュメンタリー風に描いた『木靴の樹』を発表。同年の第31回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールとエキュメニカル審査員賞を受賞。
アッバス・キアロスタミ監督:『友だちのうちはどこ?』(1987年)、『そして人生はつづく』(1992年)、『オリーブの林をぬけて』(1994年)の三部作を製作して評価を確立。現代イラン映画を代表する監督。1997年には『桜桃の味』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。1999年の『風が吹くまま』はヴェネツィア国際映画祭審査員賞特別大賞を受賞。
ケン・ローチ監督:2006年、『麦の穂をゆらす風』が第59回カンヌ国際映画祭に出品され、69歳、13回目の出品で初のパルム・ドールを受賞した。2014年には第64回ベルリン国際映画祭で金熊名誉賞を受賞した。2016年、第69回カンヌ国際映画祭で障害者差別を背景に雇用支援金(英国の障害年金に相当)の現状を描いた『わたしは、ダニエル・ブレイク』で2度目のパルムドール受賞
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わたしは、ダニエル・ブレイク ケン・ローチ監督 映画レビュー
家族を想うとき 映画 ケン・ローチ監督作品 英労働者階級,現実社会の衝撃的な真実を描写 レビュー
まとめ
3名匠監督の合作と聞き楽しみに見ました。3部作は全く独立した短編の三部作だったので少しがっかりしましたが、これが限界なんだと思います。
三監督それぞれの個性的な味わいは滲み出ていますが、如何せん短か過ぎて、また見る人の期待が大きいだけに、少し残念な気がしました。
新たな挑戦として本作品のわたしの評価は85点です。
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