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おすすめ本|『知の旅は終わらない 僕が3万冊の本を読み100冊を書いて…』立花隆著 文春新書

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おすすめ本の紹介
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なぜ「知の旅は終わらない」を読んだのか? 

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立花隆氏は私と同年齢以上の方にとっては非常に親近感のある作家ではないだろうか。1974年に発表した月刊『文藝春秋』に「田中角栄研究~その金脈と人脈」を発表し、田中角栄首相失脚のきっかけを作り、ジャーナリストとして不動の地位を築いた事はよく知られているが、残念乍ら私は学生時代も現在も氏の著作はほとんで読んでこなかった。

今回もたまたま書店の本棚で見つけて、氏の初の自伝的著作ということで読んでみたが、抜群に面白い。もう少し早くから触れる事が出来たら良かったと少し後悔しています。

「知の旅は終わらない」を読んだ感想

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本書は日経新聞の「私の履歴書」を肉厚にした感じで書かれていますが、著者の旺盛な好奇心、探求心、正義感振りに圧倒されるます。自慢話になりかねない叙述が多いですが、事実として読むしか手はありません。やっている事はものすごい事ばかり。氏から見れば平々凡々と生きる我々はチコちゃんの言葉を借りれば「ボーっと生きてんじゃねぇ~」と発破を掛けられそうです。全編が為になる話、面白い話だらけなのですが、本書を紹介する意味で特に印象に残ったトピックスを以下何点か拾い上げてみたいと思います。

本書は400ページの少し厚目の本ですが、一気読み間違いない本だと思います。人気作家ということもあり非常に読み易い本です。読んでほとんどストレスがありませんでした。

また、学生時代から女性にもてたような記載が多々ありますが、3万冊も本ばかり読んでいた学生だったのに、良く女性と付き合う時間があったものだと感心しました。お会いする機会がもしあったら、是非その辺の事情を確認したいと思います。

大学在学中に、初めてのヨーロッパの半年間の滞在で人生最大の勉強をする。ヨーロッパで様々な人々と会って、いろんな会話をしている内に、おかしいのは日本の学生運動能だと気が付いた。世界が見えていないし、歴史が見えていない…学生運動に限ったことではなく、日本の社会全体がそうなのだという事に気づいた。あのあと10年以上政治的なものへの関心がほとんどなくなって、もっぱら文化的なものに心を奪われていく。

氏は欧州から帰国後、学生運動から一切身を引いてしまう事になります。

大学卒業後、文芸春秋に就職しますが、そこの上司に「小説ばかり読んでいる様じゃだめだ、ノンフィクションを読め」と勧められた『世界ノンフィクション全集』(全50巻 筑摩書房)を読んでみたらすごく面白い、それまで小説ばかりに偏っていた読書習慣を反省したことが、大転機になったそうです。それ以降一切小説を読まなくなったと言うほどノンフィクションにのめり込み、後にノンフィクション作家として大成する起点となったのでしょう。

宇宙、サル学、脳死、生命科学をテーマにした執筆も多く書かれています。その中で多くの学者と接して理解したことだと思いますが、次の言葉がありました。

あらゆる科学の世界において、実はわかっている事よりわからない事の方がはるかに多い。小さい学者は、自分の研究で何がわかって、それが如何に意義のある発見かという事ばかり懸命に語る。中くらいの学者になると、その学問の世界全体の中で自分の研究発見の大きさを客観的にちゃんと位置付けて語ることが出来る。そして大学者になると、自分個人の研究だけではなく、その両機の研究全体がまだどれほど遅れていて、どんなに分からない事ばかりなのかを、きちんと語ってくれる

田中金脈問題についての著作については原稿用紙1万枚を超える仕事となったそうですが、その仕事のエネルギーの源は「あんな奴らに負けてたまるか」という気持ちだったと語られています。

あんな奴らとは田中角栄と田中の権力を支えていたすべての人間です。積極的に田中を支えていた人間は言うに及ばず、田中の権力に屈して、その言いなりになってしまった消極的な加担者も含めてです。

ぼくは昔から権力をかさに威張り腐る尊大な人間と、権力の前にひれ伏す卑屈な人間が大嫌いでした…政治にかかわる人間とは、根本的に価値観の違うところで生きてきました。

と、たいへん手厳しき批判しているし、自分自身の立ち位置を明確に宣言しています。このあたりも相当根性が座っていないと言えないし、実際行動に起こせるものではありません。

また、言論の自由に関しても非常に敏感で言論の自由を守る事の重要性を強調しています。引用の引用になりますが、ミルトンの言葉が紹介されていました。結構印象に残った文章です。

我々は正常な心を持ってこの世の中に生まれるのではなく、不浄の心を持って生まれてくる。我々を浄化するのは試練である。試練は反対物の存在によってなされる。悪徳の試練を受けない美徳は空虚である。美徳を確保するためには、悪徳を知り、且つそれを試してみることが必要である。罪と虚偽の世界を最も安全に偵察する方法は、あらゆる種類の書物を読み、あらゆる種類の弁論を聞くことだ。その為には良書悪書を問わず読まなければならない。

世間の一般的な意見はどんなものがあるのか

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一部書評を引用してみます。かなり好評を得ている本だという事が分かります。

立花隆の初の自伝。僕にとってこんなセンセーショナルなキャッチーな本のコピーはない。大学院生の頃、彼に心酔して著作を殆ど読み漁った。それは未だに考えの行動の勉強の礎としてある。それを補完してくれるかの様な一冊だった。文学のイマジネーション必要。文系の人間は常に最新科学情報のインプットを心得るべし。本を読まないとバカになる気がした。学べば学ぶ程、世界の広がりと深さが際立つ。二重三重にテーマを追いかけて知的欲求を満たす。帯には、氏の写真と知的世界を貪り尽くしたとある。僕には物凄く面白かった一冊となった。

知の巨人こと立花隆の自伝であり、あまりに知的レベルの高い自慢話本でもある。自慢話もその自慢の内容がすごすぎると面白いのだということがわかった。(下名脚注 納得!)神童そのものの成績で東大に入り、まだ一般人の海外渡航が解禁される前にヨーロッパを旅行し世界の論客たちと対話し、文藝春秋の編集者として頭角を現し、数年で辞めて東大で哲学を学び、物書きとしてベストセラーを世に送り出し、筆の力で田中角栄を退陣させ、世界トップレベルの科学者や芸術家にインタビューを重ねる。

同じ著者のおすすめの本はあるのか

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主に本書で語られていた著作を中心に、

『中核 vs 革マル』全2巻 講談社 1975、文庫 1983
『田中角栄研究』講談社 1976(のち新版+文庫 全2巻)
『日本共産党の研究』講談社 全2巻 1978(のち文庫 全3巻) 第1回講談社ノンフィクション賞受賞
『宇宙からの帰還』中央公論社 1983、中公文庫 1985
『脳死』中央公論社 1986(のち文庫)
『サル学の現在』平凡社 1991(のち文春文庫 全2巻
『「言論の自由」VS.「●●●」』文藝春秋、2004
『天皇と東大 大日本帝国の生と死』文藝春秋(全2巻)、2005、文庫(全4巻)2012-13
『武満徹 音楽創造への旅』文藝春秋、2016

まとめ

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ここまで幅広い活躍をされていたとは本書を読んで初めて知りました。知的探求心に今もなお溢れて活躍されているところは見習うべきところも多いです。しかしノンフィクションに目覚めて、その後小説を読む事を一切止めてしまったとか、ヨーロッパ視察以降日本の学生運動とも縁を切ってしまう潔さとか、180度の方向転換が出来るところが凡人とはまったく違う。

なお、田中角栄も少し個人的には尊敬する面もあると思っていましたが、巨悪の根源との見方はいまでも全くぶれていないようでした。

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