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小説『布武の果て』上田 秀人著 (集英社文芸単行本)‣感想 堺商人の鋭い利益損得の視点から見た驚きの織田信長像

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某社社内報の『書評欄』にたまたま推薦記事があったのが目に留まり、書店で買い求めて読んでみました。400ページを超す分量の単行本でしたが、すっかりのめり込み愉しむ事が出来ました。戦国時代の堺の豪商の目線から見た織田信長が迫力満点で描かれています。成る程と唸らされ切り口も大変多く、刺激を貰いました。今まで敬遠しがちだった歴史時代小説の分野にも興味を惹かれる切っ掛けとなる一作!

小説『布武の果て』の概要

堺商人たちが辿り着いた、「本能寺の変」の驚くべき真相とは――。

茶室を舞台に、緊迫した戦国時代の攻防の裏側を堺商人の目線から描く戦国交渉小説です。

永禄11年、織田信長が足利義昭を奉じて上洛する。
貿易による富で自治を貫く堺の納屋衆、中でも今井宗久、千宗易(利休)、津田宗及は
天下の趨勢を見定めようとしていた。納屋衆内では、新興勢力である信長に賭けることに
反対の声もあがったが、次第にその実力を認めていく。
一方、今井、千、津田は信長から茶堂衆に任じられ、茶の席で武将たちの情勢を探り、
鉄炮や硝石の手配を一手に握るようになっていた。
天正8年、石山本願寺を降伏させることに成功した信長の天下は、目前に迫っていた。
しかし、徳川家康の腹心で一向宗徒の本多弥八郎が怪しい動きを見せはじめ……。

(本刊背表紙より引用)

KanenoriによるPixabayからの画像

小説『布武の果て』の感想

元々自治を保ち発展して来た堺は戦国武将三好氏の庇護を受けていた港町でした。目先の鋭い豪商たちは戦国武将と鉄砲、硝石の取引を独占的に行う事で莫大な利益を獲得していました。

信長が将軍足利義昭を奉じて入京することで、事態は一変、堺商人たちにとって一か八かの大決断をする状況となりました。一時的に四国阿波に本拠を移した三好氏との友好関係を維持して行くか、或は新興勢力であり、ずば抜けた勢いと未曽有の能力を秘めた信長と組んで行くか!? 当時同じく瀬戸内科の港町として堺と肩を並べる繁盛をしていた「尼崎」は信長に反抗した為に、火を放たれ灰燼に帰しています。

一方、戦国乱世の”商人”は戦国武将と共に行動をしていたという事実の描写がありました。戦争=ロジスティクスで兵隊が本拠地を遠く離れ、敵側を責める為には食料・兵器の輸送は最重要課題となります。庫の仕事を請け負うっていたのが、各地の”商人”だったとあります。この辺の事情は考えれば当然と思いますが、ロジスティック部門も当然武士が担当していたものと想像していましたが、目先の鋭い商人は軍団と共に行動し、必要物資の調達を請け負っていた様です。

その意味では”勝ち馬に乗る”ことが物凄く重要問題で、負ける軍団に着いている商人は調達物資の代金の回収は出来ないどころか、命さえ守られる保証はありません。

そして、当時の堺商人が信長の将来性を見抜き、信長の命令に従う事が出来たのは、正確な情報収集能力と情報分析能力があったからだと思われます。鉄砲の調達、当時海外からの購入する事に加え、堺近郊でも鉄砲作りの技術が伝わり何千丁という鉄砲が国内で製造され、堺商人の手を経て戦国武将の手に渡った様です(何と鉄砲一丁は30貫文=現在価格で360万円相当という超高額!)。さらに何とまったく知りませんでしたが、鉄砲を発砲する際に必須な「硝石」は日本に産出せず、100%海外から輸入頼りであったそうです。『南蛮貿易』で東南アジアからのみ手に入れる事が出来るたいへん貴重な商品でした。

冷静沈着な商人の頭で整理されながら語られる信長の活躍(凄惨を極める延暦寺焼き討ち、一向一揆勢との攻防、浅井朝倉攻め・・・)の臨場感は圧巻でした。しかも、信長に味方している為、武運拙く信長が万一敗れる事があれば、堺そのものの命運は尽きるという宿命を感じ乍ら語られる緊迫感も良く伝わって来る傑作戦国小説ではないかと感じました。

13748526によるPixabayからの画像

小説『布武の果て』の世間一般的な意見はどんなものがあるのか?

「読書メーター」からの感想引用記事➢ 総じて面白いという好意的な意見が多い様です。 

今井宗久や千利休といった、堺の商人からみた織田信長。なかなか新鮮な目線で信長を描いていたので面白かった。

破竹の勢いで天下統一の階段を駆け登るも、「権に囚われた」故に、本能寺であえない最期を遂げた信長。当時「天下の鍵」と呼ばれた堺。堺の大商人にして茶堂衆の今井宗久、千宗易、津田宗及らの視点から信長と戦国の世を描く。商い人も戦人。戦乱の世においてはここぞの場面で命をかけて商いを張る。茶室を舞台に、時流を読み、人を観て、機を捉える商人たちの慧眼と、著者の歴史への深過ぎる造詣は圧巻! 本能寺の変の新解釈にも説得力あり

三好に付くか織田に付くか。商売で培った嗅覚を頼りに、堺衆はベンチャー織田の成長性と先々の株価を値踏みする。間違えれば堺が滅びる。商人にとっても生きるか死ぬかの戦いだった。

最後に

著者上田秀人さんのご経歴は、

1959年、大阪府八尾市に生まれる。大阪歯科大学卒業後、歯科医院を開業。

一念発起し、山村正夫が主催していた小説講座に入門し、小説の書き方を学ぶ。1997年(平成9年)、「身代わり吉右衛門」が第20回小説CLUB新人賞佳作に入選を果たしています。最近では「百万石の留守居役」シリーズで第7回吉川英治文庫賞を受賞されています。

いままで、全く読んだことが無い作家ですが、まもなく家康モノの新連載が始まるそうです。(興味を持ちました)これは来年の大河ドラマ(『どうする家康』)に合わせたものなので、商魂たっぷりで書くつもりというインタビュー記事がありました。やはり、とことん大阪商人の血を感じます。

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