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おすすめの本『存在のすべてを』(塩田武士著・朝日新聞出版)感想‣本屋大賞第三位受賞作品、本当は一位でもいいのではないかと思う傑作!

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おすすめ本の紹介
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2024年本屋大賞にノミネートされていた10冊の中の一冊(最終的には大賞の獲得ならず、惜しくも三位となっていました)だったので興味を引かれ本屋で購入して読み始めたもの。読了前に既に大賞の発表がありました。(大作でもあったので読了にかなりの時間を要してしまいました)

導入部の前代未聞の2児同時誘拐という事件から一挙に物語世界に没入されられました。子供のうち一人は直ぐに無事解放されました。もう一人も「3年後」に無事解放されるという奇妙な事件でした。しかしながら、そのベールに包まれた3年間を追う綿密なストーリーを辿る「旅」が始まります。空白の3年間を過ごした”元少年”(自身では一切口を閉ざしていました。現在は成人し画家となっています)が主人公なのだとは思いますが、元刑事、新聞記者、雑誌記者、もう一人の関連した画家、画廊経営者などの登場人物の行動、心理などが克明に描かれていく様子はまるですべてが”主人公”であるかの錯覚に陥ります。そして、物語は長編映画を見ていような臨場感に溢れていました。

本年度本屋大賞第一位の作品『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈(著)新潮社)はまだ読んでいませんが、本作『存在のすべてを』もかなりな力作(感動作)と感じました。

『存在のすべてを』概要

朝日新聞出版公式HPより抜粋

前代未聞「二児同時誘拐」の真相に至る「虚実」の迷宮!
真実を追求する記者、現実を描写する画家。
質感なき時代に「実」を見つめる者たち――
著者渾身の到達点、圧巻の結末に心打たれる最新作。

平成3(1991)年に神奈川県下で発生した「二児同時誘拐事件」から30年。当時警察担当だった大日新聞記者の門田は、令和3(2021)年の旧知の刑事の死をきっかけに、誘拐事件の被害男児の「今」を知る。彼は気鋭の画家・如月脩として脚光を浴びていたが、本事件最大の謎である「空白の三年」については固く口を閉ざしていた。
異様な展開を辿った事件の真実を求め、地を這うような取材を重ねた結果、ある写実画家の存在に行き当たるが――。
「週刊朝日」最後の連載にして、『罪の声』に並び立つ新たなる代表作。

『存在のすべてを』読後感想

幼少期に親から十分な愛情を注がれなかったというテーマは、本作に限らず同じく2024年本屋大賞ノミネート作品である『水車小屋のネネ』(津村記久子著)でもちょっと似たような境遇にあった事を思い出しました。たまたま、そうだったのか、あるいは、「家庭内暴力」「幼児虐待」がそれほど多発化している実態を浮かび上がらせているものなのか、ちょっと心配にはなります。

ちょっとネタバレになってしまいますが、同時に発生した幼児誘拐事件は結局「失敗」し、時間差はありましたが(一人は直ぐに、もう一人は3年後)無事に解放されています。この空白の3年間にいったい何があったのか、刑事、新聞記者、雑誌記者らが迫るという物語の構想には驚きました。本書の主人公はいったい誰なのかと思われる程、一人一人登場人物の真実を求める活躍が生き生きと描き出されていきます。

物語は横浜、滋賀、北海道まで及んでいました。この旅路は一種の逃避行となっています。ある犯罪に巻き込まれ運命的な子供との出会い(即警察に連絡を取れば良いのにとも思われましたが…そうはしなかった深い理由も語られていきます)そして別れ…きちんと育てていた証しには抜け替わった乳歯が小さな箱に詰められていたという演出にも驚きました。

また、日本美術界の画廊と画家との関係なども素人にはまったく別世界ですが、丹念に描かれていく驚きの裏世界など興味津々でした。

可能であれば「内藤亮」自身に自分の事をもっと語って貰いたいという気持ちもありましたが、これは作者が敢えてベールに包んだままにしたのかもしれません…

『存在のすべてを』の著者塩田武士について

1979年4月21日生まれ、兵庫県尼崎市出身。大学1年の19歳の時に藤原伊織の『テロリストのパラソル』を読み、作家を志して創作活動を開始。新人賞に応募し続けるも12年間は芽が出なかったが、大学卒業後に入社した神戸新聞社での将棋担当記者としての取材経験を活かし、2010年、プロ棋士を目指す無職の男を新聞記者の視点で描いた『盤上のアルファ』で第5回小説現代長編新人賞を受賞しています

「ウィキペディア」より

世間の一般的な感想にはどんなものがあるのか?

読書メーターに公開されている読者の感想を(大変失礼ながら

勝手に)抜粋させて頂きました。好意的な意見が多数でした。

「生きている」という重み、そして「生きてきた」という凄み。 事件当日を描いた緊張感のある序章から始まり、徐々に徐々に明かされる真相。全編を通して登場人物や会話から真相へのピースが嵌っていく構成が、ミステリーとしてとても気持ちがいい。 でもこの本はミステリー小説じゃない。読み進めるたび、ただ事件の真相を知りたいという気持ちから、彼らが何を思い生きてきたのか、ここに存在する人間のすべてを見届けたいという気持ちに変わった。 久々に夢中になって読んだ。九章が好き。 長いけど、長くても、読んでよかったと思う。

これはきっと映画化するだろう。スケールが大きく、各場所の情景がとても美しい。物語の始まりが誘拐事件だったので、骨太のミステリーを想定しながら読み進めたが、実際にはヒューマン系で実に「存在」を意識せずにはいられない読了感。感想を述べたくてもこの感情に当てはまる言葉を私は持ち合わせてなく、とても歯がゆい。

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