香港の「女人街」と聞いて露天商が所狭しと店を並べ、香港一活気に溢れた旺角のナイトマーケットを思い出す方は香港通の方だと思います。人はぶつかり、大声が飛び交い、一秒も止まらない街。衣類やアクセサリー、Tシャツ、偽物ブランド等を売る露店が1kmに渡り所狭しと展開されている一帯です。
1990年代初め、出張で香港を訪れていた時の話です。現地ローカルスタッフの一人ととても懇意にしてもらい、中国の重慶、広州などへ同行訪問してもらううちにすっかり打ち解け合い、とうとう彼の自宅で家族との会食に招かれました。彼の住む家はこの女人街の真上のアパートの一室でした。
階下のカオスと喧騒とは別世界、たった一枚のドアで世界が切り替わる香港マジックを実感しました。失礼ながら狭いながらも非常に整理整頓され、家具類も必要最小限に抑えられていました。これは土地の狭い香港に住む人々の知恵だと感じました。目立つのは立派なテーブルと椅子、食事は最重要視されているのでしょう。
次々と運ばれる盛りだくさんの手料理のおもてなし。湖北省出身と聞いていましたが、出された料理は想像したようには辛くはありませんでした。一品一品真心のこもった家庭料理は、皿が空になると次々新しい料理が手際よく調理されてきます。料理番のおじさんには申し訳ありませんが、一緒に食べる暇もなしです。
和気あいあいとした雰囲気を喧騒の女人街の真上で味わう不思議さ、これこそ香港そのものの縮図であると感じました。本来であれば30年前の日常的な会食風景であり、すぐに忘れても不思議ではありません。しかしこの時の情景を未だに鮮明に覚えているということは、その時頂いた家庭料理は、どんなミシュランの名店よりもきっと忘れがたい味がしていたに違いありません。



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