「進化のからくり」をなぜ読んだのか
|
「進化のからくり」という題名に負けました。またまた書名につられ、ついつい手が出て購入して読み始めたら想像とはかなり違う内容(良い意味で期待外れ)だったのですが、進化生物学や生態学に関わる研究者たちの成果、またその裏に積み重なる過酷なフィールドワークの現実などを垣間見る事が出来て、とても楽しんで読むことが出来ました。進化生物学という学問の魅力に更に引き込まれました。
はじめ゛からくり”と聞いて遺伝子の分子レベルの分野の話でも出てくるのではないかと予想していましたが、それはとんでもない見当外れで、面白可笑しく綴られた話で素人にも進化生物学とはどういう研究をするのか、ガラパゴス島に行って何をしているのか、小笠原のカタツムリや琵琶湖のカワニナを捉えてどういう事をやっているのかよく分かる本です。
ブルーバックスを読んだ最近の投稿です。
フォッサマグナ 日本列島を分断する巨大地溝の正体 藤岡換太郎著 レビュー
不自然な宇宙 宇宙はひとつだけなのか? 須藤靖著 本 レビュー
「進化のからくり」を読んだあらすじ、感想
|
「歌うカタツムリ」(岩波科学ライブラリー)で第71回毎日出版文化賞 自然科学部門受賞を受賞し、新聞や雑誌の書評で、「稀代の書き手」として絶賛された千葉聡氏(東北大学東北アジア研究センター教授)の受賞後の最新作。自身の小笠原のカタツムリ研究のフィールドワークや内外の若手研究者の最新の研究成果を紹介しながら、「進化生物学」研究の苦労と喜びを描いた作品で非常に親しみやすい作品です。
もちろん進化生物学に関する学術的な記述も多く記されていますが、どれも長年の現地での取材、研究の成果に基づくものなので具体的実例は、非常に分かり易いし説得力があります。
何点か興味深い内容の一部を紹介していきたいと思います。
左巻のカタツムリは体のつくりが全て左右逆転している。その発生する確率は百万匹に1匹の割合、何と大変不幸な事に左巻のカタツムリは正常な右巻きのカタツムリと交配が出来ない為、遺伝子情報を掴むためには多くの左巻のカタツムリすなわち、左巻カタツムリの子供がどうしても必要だった
左巻のカタツムリの恋人探しに欧州、米国の市民も巻き込む、TV報道を聞いた人口は19億人に達する程の大フィーバー振りとなった後、漸く希少な”恋人”が発見されたという事です。また、そもそもカタツムリは雌雄同体だそうです。それで交尾をするというのはどいう事かと思いますが、それも本書内では図解入りでしっかりと説明してくれますので、お楽しみです。この説明で左巻と右巻どうしでは思うように交尾できない理由がわかります。
突然変異によって集団にもたらされた遺伝的変異のうち、生き残ることや子供を作るのに有利な変異は、次世代に、より多くのコピーを残すことが出来る。その為、世代の経過と共に、こうした増殖や生存に有利な変異が集団中に広まる。この過程が何世代も繰り返されることによって、よりいっそう有利な変異が広まり、個体の性質もさらに有利な物へと変化する、これが自然選択という進化のプロセスだ。
この内容は素人でもまったく異存なく理解出来る内容ですね。
驚くべき事にカワニナの仲間では、同種の同じ集団の中で、染色体の形が個体ごとに違っている場合がある。しかも染色体数が異なる集団が交雑して、雑種が出来たりしている。これは生物学の常識に反する奇妙な現象… 日本には18種類のカワニナ類が生息している。このうち15種類が琵琶湖とその周辺の水系だけに棲む。その後の研究によれば、40万年前に琵琶湖の面積が急速に拡大し、それに伴い湖の深度も変化したことから、それぞれの生存条件に適するカワニナに進化し分化していった。
カワニナとはホタルの餌になる貝類としか知りませんでしたが、研究者は十数年間もカワニナの研究を続ている内容が紹介されています。
カタマイマイ属は2,3センチほどの、小笠原固有のカタツムリである。現在の小笠原には20種以上生息している。その小笠原という小さいな閉ざされた空間で、多彩な進化のストーリーを紡いでいる。それはさながら進化の小宇宙とも呼ぶべき、豊かで特別な世界だった。
小笠原が世界自然遺産に登録されるためには、小笠原の自然が「顕著な普遍的価値」を持つことを説明しなければなりませんでした。著者は専門家の一人として協力し、自分の長年の研究テーマであった小笠原のカタツムリの価値を説明し、世界自然遺産登録への貢献度は非常に大きかったと自ら語っています。
世間の客観的な意見はどんなものがあるのか
|
最近の読書メーターの感想を引用させて頂きます。やはり多くの方が少し硬い本と思っていたようですが、実際の内容は全然違います。
ブルーバックスの中では異色な本。著者や周辺の方々の研究や体験からのエピソードエッセイ的な色合いの作品。そう、一言で科学書的な固さがなくどこまでもソフトなのだ。 個人的には3章のひとりぼっちのジェレミーのエピソードが好きだった。 やっと巡り会った運命の相手を後から来た奴にかっさらわれる、まるで俺やがな!(笑) そして本書で出会ったこの言葉は記憶しておきたい。「奇跡は諦めなかった奴の頭上にしか降りてこない」 図や写真も豊富で楽しく読めた
やっぱりサイエンスは面白いなー。研究における業績っていうのはたった一人では成し得ないことである。何人もの研究者の好奇心と継続的な調査によって知識が形となり,体系化していくのだ。作者の研究に対する姿勢と巧みな文章表現に心踊った。「自分は何者なのかをしりたい,という好奇心。それも人間としの自分ではなく,一つの生命体としての自分で、究極的には生命とは何か、という問いに対する何らかの答えを得たいと思い、研究を続けているのです。」問いを建てるのはすごく大切なことだなあ...
同じ作者のおすすめの本はあるか
『歌うカタツムリ』(岩波科学ライブラリー、2017年)で第71回毎日出版文化賞・自然科学部門を受賞。
『生物多様性と生態学ー遺伝子・種・生態系』 (朝倉書店、2011年、共著)などの著作がある。
まとめ
少し遠いガラパゴスより小笠原なら行くことは可能かなと思い始めました。一週間に一便でている船で24時間掛かるそうです。海が大変美しいと聞いていましたが、カタツムリが有名である事は本書で初めて知りました。また、世界自然遺産に登録される為にこのカタツムリの研究成果の説明は大いに役立ったそうです。
コロナ禍が無事収束した後、是非旅行計画を立てたくなりました。絶海の孤島の雰囲気を味わってみたいと思います。
コメント