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おすすめ本|『熱源』(直木賞 川越宗一著) 樺太アイヌを主人公とする感動の歴史小説

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先週たまたま北海道を訪問し白老町の「虎杖浜温泉の民宿」に宿泊した際、白老町には「国立アイヌ民族博物館」が新たに生まれ変わり今年開館する予定というポスターがあったのを見たが、既に以前より「アイヌ民族博物館」として存在していたことは知りませんでした。しかも今回「熱源」を読み著者がこの小説を書く切っ掛けが2015年に同「アイヌ民族博物館」を家族で訪問し、たまたま、そこにあった本編小説の登場人物であるポーランド人「プロニスワフ・ビウスツキ」の銅像を見たこと、であろうそうです。

虎杖浜温泉の詳細は以下ブログで紹介しています。北海道白老虎杖浜温泉、登別温泉、ニセコ五色温泉とニセコスキー

もし、「熱源」を白老訪問以前に読んでおり、そういう背景を知っていればと思いましたが、多少『ニアミス』の感じもありますが、少なからずの『縁』を感じて本編を楽しむことが出来ました。

熱源 のあらまし

樺太(サハリン)で生れのアイヌ、ヤヨマネクフは開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。
一方、ポーランド人ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、ほとんど加担していないロシア皇帝の暗殺計画に巻き込まれ懲役15年の刑を受けて、苦役囚として樺太に送られる。同じく実弟であるヨゼフもシベリアへの懲役5年の刑を受ける。これはロシアは囚人を利用してシベリアを開拓しようとしていたのである。
日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人の二人が革命勃発直前の大国ロシアに翻弄されながら、極東の樺太で運命的な出会いをする。時代は第一次世界大戦〜第二次世界大戦の終結までの期間に及び、途中広瀬矗陸軍中尉の南極点制覇に犬橇の使い手として参加したり、金田一京助のアイヌ語研究の手助けをしたりと広く、深く人物の相関関係が錯綜する世界が描かれる。

熱源の読みどころ

アイヌは北海道にのみ存在する日本固有の民族と誤解していましたが、樺太他にもアイヌが従来住んでいたことを初めて認識させられました。わたし自身昭和50年代に4年間北海道に住んだ経験があり、「アイヌ」の存在は知っていましたが、歴史的な文化、風俗習慣などはあまり関心が無く、接することも無かった事が今となっては多少悔やまれます。本作品により「樺太アイヌ」の存在を知ることができたことはたいへん大きな収穫でした。

また、樺太(サハリン)の明治時代から昭和にかけての位置付けに関しても、日本とロシアの力関係でいきなり樺太に線を引かれて、今日から樺太に南半分に住む「アイヌ」は「日本人」という色分けも北海道・本州に住んでいてはその経緯は良く分かりませんでしたが、本作で多少詳細事情が分かってきました。

更に何度もアイヌ民族は「消えゆく民族である」という表現がされています。アイヌ自身にその認識が現在でも浸透しつつあるのかどうか、懸念される点です。「民族は強くなければ生き残れない」という認識は少数民族は常に抱えた危機意識なのかもしれません。その懸念に、アイヌ自身はどう対処していこうと思っているのでしょうか?

一方、本編小説の中では特に問題提起されたものではありませんが、我々が認識すべきなのは「アイヌ」を既に大和民族に同化した民族として、大和民族と同一民族としてみるべきなのか、歴史的には大和民族とは異なるので「アイヌ」固有の独自性を尊重して、特別に「保護」して「アイヌ」の伝統文化(大和民族の相違性を強調し)は今後も守り続けていくべきなのか、自分としてはこの点が疑問として少し残りました。今後もう少し深く勉強したいと思いました。

熱源の著者川越宗一氏について

川越宗一氏は1978年大阪府生まれ。子供の頃から歴史好き、上述の通り本編執筆のきっかけとなった北海道白老町を訪問した時は、作家でも無ければ小説もまだ書いていなかった。大学中退後、通信カタログ販売の大手「ニッセン」に就職(パートとして)、商品の紹介やユーザーからの質問に答える同社公式twitterで「ニッセンのスミス」として情報発信を担当し、非常に評判が良くニッセンのアカウントの人気が急上昇した模様。

2018年デビュー作『天地に燦たり』では薩摩、琉球、朝鮮から見た豊臣秀吉の朝鮮出兵を描き、見事第25回松本清張賞を受賞している。これはもともと小説を書こうと思っていたわけではなく、5年前に沖縄の首里城を訪問した時に物語が突然浮かび、頭から離れなくなってしまったと語っています。

最後に

二作目にいきなり「直木賞」受賞という快挙は潜在的力量の大きさを感じさせます。小説を書く切っ掛けがたまたま訪問した先での物語の構想が頭に湧き上がってくるという才能が神がかり的です。わたしは沖縄首里城に行こうと北海道白老町を通り過ぎようと何の啓示も受けませんでしたので、羨ましい限りです…

北海道/樺太を舞台にした最近の本についてはまったく手を付けていなかったので今後少し関心を強めたいと思います。また、川越宗一氏のデビュー作『天地に燦たり』も読後感想を書き上げたいと思います。

参考までに他本屋大賞ノミネート作品で読後レビューの記事のあるものは以下の通り

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 書評 (著者ブレイディみかこ)

線は、僕を描く 砥上裕将著 2020年本屋大賞ノミネート作品レビュー

などがあります。

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