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感想|『ジミー、野を駆ける伝説』(2014/ケン・ローチ監督)1930年代アイルランドを舞台に、実在の活動家ジミー・グラルトンの生きざまを描いたドラマ

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『ジミー、野を駆ける伝説』のあらすじと概要

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2014年カンヌ映画祭コンペティション部門に出品された本作品は、1930年代のアイルランドを舞台とし、庶民が理不尽な抑圧を受けていた時代に、自由で喜びに満ちた人生のすばらしさを説き、閉鎖的な村の人たちの心を解放していく実在の人物ジミーの生き様を描写しています。ジミー本人も野に生きたる労働者で“名もなき英雄”でした。ジミーの私利私欲のない高潔な精神が、緑生い茂るアイルランドの大地の美しさに彩られ、観客の心を揺さぶる感動作となっています。

1932年、ジミー・グラルトン(バリー・ウォード)は内戦後のアイルランドに米国から10年ぶりに帰ってくる。かつて地域のリーダーとして絶大な信頼を集めたジミーは、気心の知れた仲間たちに歓待され、昔の恋人ウーナ(シモーヌ・カービー)とも再会を果たす。ジミーの望みは、年老いた母親アリス(アイリーン・ヘンリー)の面倒を見ながら、農業をやり、気楽に生活することでだった。ところが、村の若者たちの訴えに衝き動かされ、閉鎖されたホール(集会所)の再開に取り掛かります。そのホールとは、かつてジミー自身が建設したもので、人々が芸術やスポーツを学びながら人生を語らい、歌とダンスに熱中したかけがえのない思い出の場所でした。しかし、図らずもそれを快く思わない勢力(当時のカトリック教会や地主層らにとって目の敵だった)との対立を招き、ジミーはまたもや永遠に国外追放されてしまいます。

『ジミー、野を駆ける伝説』のスタッフとキャストについて

PexelsによるPixabayからの画像

ケン・ローチ監督: 1936年生まれ84歳、 イギリスの映画監督・脚本家。政治活動に熱心で、労働者階級や移民、貧困などの社会問題に焦点を当てた作品を主に製作している。

ケン・ローチ監督の作品感想投稿記事はこちら:

わたしは、ダニエル・ブレイク  ケン・ローチ監督 映画レビュー

家族を想うとき 映画 ケン・ローチ監督作品 英労働者階級,現実社会の衝撃的な真実を描写 レビュー

レビュー|「やさしくキスをして」(2004)巨匠ケン・ローチ監督の”傷だらけの”ラブロマンス!?

バリー・ウォード(ジミー役):映画.COMのインタビューに次の様に答えています。

僕はダブリン郊外の出身で、労働者階級の出だけれど、どちらかといえばシティボーイ。だから、数週間前にロケ地入りして家々を回って農業の手伝いをしたんだ。だんだん手がゴツゴツしてきて慣れてきたけれど、やっぱり1年を通して農作業をしている人とは筋肉の付き方が違ったね

とにかくケン・ローチ監督の作品に主演できるということ、出演しているということに興奮し、人生最高の時を過ごしました。楽しいシーンはとことん楽しもうと思ったので、それが映画で反映されていると感じていただければ成功だと思います

ケンローチの映画に出演するだけで幸せを感じる、というウォードの演技は作品中にも十分表現されている様に思えました。

シモーヌ・カービー(ジミーの元恋人ウーナ)

『ジミー、野を駆ける伝説』のネタバレ感想

Martin PociechaによるPixabayからの画像

社会派ケン・ローチ監督の作品の中では過激度は抑え気味の映画でした。内戦の混乱が幾分収まり掛けた1930年代のアイルランドが舞台のドラマですが、一般労働者、農民とカトリック教会・地主層の対立が描かれています。主人公の無名の”英雄”ジミー・グラルトンは田舎の町で過激な思想を人々に吹き込むなどの行動は特にしていません。歌やダンス、読書会を開催し、少しでも人々の生活が豊かになるような活動をしているだけなのですが、たまたま、同じ階層の人で地主から理不尽な理由で住んでいる土地から追い出された人を手助けしただけで、地主・カトリック教会から目の敵にされ、舞台となった集会所(ホール)は放火され全焼し焼失されるだけではなく、本人は裁判も行われることなく国外に追放されてしまいます。何とも国家権力に結びついたカトリック、地主層の横暴さに憤慨します。

アイルランド国内の複雑な状況はあまりよく理解していませんが、問題の根っこは現在も解決されず以前くすぶっている様に聞いています。本作品中では労働者階級と地主層との対立構図は分かり易く理解できますが、労働者階級と教会の対立という事が日本人には少々分かりずらい様な気がします。教会は、労働者階級のなかのほんの一部の共産主義的な考え方(無神論)を恐れており、また、米国のジャズを淫らな音楽と決めつけています。しかしながら、一方でシェリダン神父はジミーの見識、人間性については強い尊重を示していのが面白い所でもあります。兎に角ホールでの歌、踊りを利用して、人々を”扇動”することをかなり毛嫌いしている様子が分かります。

宗教の力の大きさについては、映画の中でもローマ法王の代理人の枢機卿が200年振りに首都ダブリンを訪問されたという大々的な歓迎の様子が流れていて見る事が出来ます。「教会」の権力の強さ、影響力はやはりヨーロッパでは、我々の想像を遥かに超え大きいという事がこのシーンから良く分かります。

最後に

Shannon DaGravaによるPixabayからの画像

土地を不法に取り上げられた人を救う為に、多くの村人が手に太い木の枝を持ったり地主の屋敷近くに集まるシーンがあります。この集団には女、子供まで加わっています。双方、激高しお互いにピストルを向け合い一触即発の状況になります。ここは、まず、銃撃戦は避けられない場面と一瞬おもいましたが、何とかその場は冷静さを取り戻し、収まりましたが、いきなりピストルを持ちだシーンというのもやはり内戦が終わったばかりの物騒な国情をよく表しており驚きました。

理不尽に国外追放となってしまいますが、ラストシーンでは護送車に乗せらているジミーを村の大勢の若者たちが自転車に乗り、追いすがるシーンには本当に感動させられました。ジミーの残した精神は若い世代にきちんと引き継がれていった様子が分かります。

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