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中国・福建省厦門初出張 ほろ苦い旅の思い出

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旅の随筆
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厦門への初回訪問は1990年代前半の出張でした。厦門市内の厦門ベアリングという工場を訪問しました。中国3大ベアリング工場の一つで、厦門以外の工場は遼寧省大連市の北にある瓦房店ベアリング、河南省洛陽ベアリングの2か所が有力ベアリングメーカーでした。ベアリングとはあらゆる回転する機械に使用されている機械加工部品です。日本語では軸受けと呼ばれています。

これらの工場に日本製のベアリングの素材となる鋼材の新規売り込みを図る為、瓦房店と洛陽は既に訪問していたので、今回の厦門は最後の訪問地となりました。

厦門は以前1年間語学留学していた台湾に近接していることもあり、中国大陸の他都市である北京、上海、広州などよりもたいへん親近感を感じていた都市でした。また、会社の厦門事務所の所長も台湾出身の方が赴任されており、このことからも台湾と厦門の経済交流の親密度が良く分かります。ご存知の通り、多くの海外華僑の出身地・故郷となっています。有名な厦門大学も華僑資本により創設されています。

支店長からは出張の最後の晩、厦門の海鮮料理をごちそうになりました。生きた新鮮なエビを蒸したものに唐辛子醤油で食べる(清蒸白虾)を御馳走して頂き、大皿に何匹か残した時、「エビに成仏してもらう為には、残さず全部食べなさい」と言われたのがとても印象に強く残っています。

そんな厦門ですが、初出張はわたしにとっては最悪の印象を残しました。

厦門ベアリング工場の訪問は無事に終え、翌日上海で別のお客との面談アポがある為、早朝の便で上海へ飛行機で移動する予定でした。本来であれば、また、中国の事務所のローカルスタッフに同行してもらえば良かったのですが、その時の出張はなぜかわたしひとりの単独行動をさせられていました。

当時の中国のフライトの運行状況からすれば、頻繁に起こり得る事態だったのですが、朝8:00に出発予定の便が、空港待合室で到着便の遅延で延々12時間も待たされ挙句、夜8:00になり、最終的に欠航と決定されました。翌朝に飛行場が飛ぶかもしれないので、明日空港にもう一度出直して来て欲しいという通達がありました。

更に、その晩の宿泊ホテルは航空会社が手配するので、そちらに泊まって欲しいという案内でした。大勢の乗りそびれた中国人乗客もいることから、わたしは見知らぬ中国人との相部屋にされるいやな予感を感じ、明日の集合時間、場所をきちんと確認した上で、宿泊先については昨晩宿泊したホテルに戻り、フライトがキャンセルになったのでもう一泊、泊まらせてもらう事をたのみ、何とか自己解決しました。

そこまではよかったのですが、問題は既に朝カウンターで預けたスーツケースです。これは既に託送荷物として空港カウンターでチェックインし預けていました。一旦預かった手荷物は上海空港到着まで返却出来ないと、持ち出しを断られてしまいました。航空会社の理不尽な対応に愕然としましたが、仕方なく、ブリーフケース一つをぶら下げ、昨晩泊まったホテルにチェックインしました。 もちろん常用していたシェーバー、顔クリーム、頭髪ムースなどは旅セット一式はありません。

当時は、コンビニという便利な店もなく、ホテルに常備されているタオル、石鹸、シャンプー、歯ブラシなどの最小限の備品のみで入浴を済ませ、することもなく直ぐ寝ることにしました。

翌朝は何事もなく、不幸中の幸いほぼ24時間遅れで、飛行機は無事厦門を離陸する事ができました。上海に着くと、次の客とのアポイント時間が迫っていました。しかしながら、まずホテルにチェックインし、シャワーを浴びて、髭をそり、頭髪を整えて、着替えを済ませ、さっぱりして出掛けようと考えていた矢先、 上海事務所のスタッフが突然部屋のドアをノックもせず開けて「加藤さん!すぐ出発しないと、客とのアポ時間に間に合いませんよ!」と血相を変えて、飛び込んで来たのにはびっくり仰天しました。

彼は、わたしが当然昨日の内に上海に到着し、今頃はゆっくり朝食を取って余裕を持って客先訪問するものと考えていた様で、何をもたもとしているんだと大変な剣幕でした。(勿論これは、携帯電話という便利なモノがまだ無い時代のことです)

この為、空港から持って来たスーツケースを紐解く時間も無く、また、昨晩から着用を続けていたワイシャツ、下着、靴下も着替もせずに、実に慌ただしく、客の待つ上海市郊外の海寧まで強制的に車に乗せられる格好になりました。

一番気になったのぼさぼさの髪の毛でした。当時はまだ今と大分違い、頭髪もふさふさしていました。少しナチュラルウェーブ=平たく言えば天然パーマなので早朝洗髪してムースを着けないと、寝起きの髪の毛は爆発状態でした。コンビニもないので、昨晩、新しいムースを買う事もできませんでした。無精ひげ、ワイシャツはよれよれの状態でした。

こんな妖しい風体の商社マンと初対面して、中国人の顧客はどう感じたのでしょう? 「いったいこいつは何ものだ!」と思うに違いありません。身だしなみは最低で大変失礼な人だなと感じたと思います。 やはり、初対面の際は身だしなみが大事なので、面談時間に多少遅れたとしても、入浴し、着替えてから訪問した方がよかったと反省しています。

その時は面談時間を忠実に守ろうとした現地スタッフの勢いに負けてしまいましたが、もう既に後の祭りです…

それ以降、何度となくビジネスや観光で厦門を訪問していますが、あの時の苦い経験がいつも頭を少しだけ過ります。

とても懐かしい厦門は、最近市内の一部歴史地区が世界遺産に登録されたというニュースも聞いています。一方、経済的にも大成功し、かなりのスピードで発展を遂げている様です。また、海鮮料理も抜群に美味しい土地なので、新型コロナ禍収束の後には是非再訪したいと考えています。

なお、気になる日本からのベアリング鋼材の新規輸出案件の進捗ですが、わたしはその出張以降、鋼材輸出から自動車本体の輸出部門に異動になった為、どうなったかは実はよく分からないのです...

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