映画『三つの鍵』のあらすじ・概要
「息子の部屋」でカンヌ国際映画祭パルムドール、「親愛なる日記」で同監督賞を受賞しているイタリアの名匠ナンニ・モレッティが、同じアパートに住む3つの家族の素顔が、ひとつの事故をきっかけに次第に露わになっていく様子をスリリングに描いた人間ドラマ。
ローマの高級住宅地にあるアパートに暮らす、3つの家族。それぞれが顔見知り程度で、各家庭の扉の向こう側にある本当の顔は知らない。ある夜、3階に住むジョバンニとドーラの裁判官夫婦の息子アンドレアの運転する車が酒酔い運転の為建物に衝突し、ひとりの女性が亡くなります。同じ夜、2階に住む妊婦のモニカは陣痛が始まり、夫が長期出張中のためひとりで病院に向かう為、前の道路でタクシーを拾おうとしていました。1階のルーチョとサラの夫婦は、仕事場が事故で崩壊したため、娘を朝まで向かいの老夫婦に預けますが、認知症の老夫と娘が一緒に行方不明になってしまった事に慌てます…これら一連に小さな選択の過ちの積み重ねが、予想もしなかった家族の不和を引き起こし、彼らを次第に追い詰めていくことになります。
イスラエルの作家エシュコル・ネボの「Three floors up」が原作で、デビュー以来オリジナル作品を手がけてきたモレッティ監督にとっては初の原作ものとなりました。出演はマルゲリータ・ブイ、リッカルド・スカマルチョ、アルバ・ロルバケルら。
2021年製作/119分/イタリア・フランス合作
原題:Tre piani
映画『三つの鍵』のスタッフとキャストについて
ナンニ・モレッティ監督・制作・原案・脚本・出演:学生時代は映画と水球に熱中し、後に水球選手を主人公に映画『赤いシュート』(1989)を製作しています。1981年の『監督ミケーレの黄金の夢』でヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞受賞。85年には『ジュリオの当惑』ではベルリン国際映画祭、審査員特別賞を受賞。93年の『親愛なる日記』でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞し、2001年の『息子の部屋』でパルム・ドールを受賞。
➢映画『親愛なる日記』(1993/ナンニ・モレッティ監督)感想‣<大好きな映画>が撮影から30年ぶりにレストア版として映画館に帰って来た!
マルゲリータ・ブイ(ドーラ):7度ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞(※)の最優秀主演女優賞を受賞し、イタリアのメリル・ストリープと称されることもあると。イタリアを代表する監督の作品に次々に出演しています。
※イタリア映画における最高の名誉とされる賞。
リッカルド・スカマルチョ(ルーチョ): ウディ・アレン監督『ローマでアモーレ』(2012)パオロ・ソレンティーノ監督『Loro 欲望のイタリア』(2018)などギャングから女性を虜にする好男子までを演じています。
➢おすすめ映画|『LO-RO 欲望のイタリア』(2018/パオロ・ソレンティーノ監督)スキャンダル政治家として知られるイタリアの元首相シルビオ・ベルルスコーニをモデルに描いたドラマ
おすすめ映画|『九人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019/レジス・ロワンサル監督)
アルバ・ロルヴァケル(モニカ):ドイツ人の父とイタリア人の母の間にフィレンツェで生まれる。『幸福なラザロ』(2018)で知られる妹で監督のアリーチェ・ロルヴァケル作品にも出演。演じる役の幅が広く、現在イタリア国内のみならず国際的にも活躍するイタリア映画界に欠くことのできない女優の一人。
➢おすすめ映画|『幸福なラザロ』(2018/アリーチェ・ロルヴァケル監督)巨匠マーティン・スコセッシ監督も絶賛した映画
デニーズ・タントゥッチ(シャルロット):1997年生まれ、母はドイツ人、父はイタリア人。2020 年ミラノ大学の物理学の学位を取得しています。
映画『三つの鍵』のネタバレ感想
(ネタバレ有)イタリア・ローマの高級アパートを舞台とし、普段は殆んど挨拶をする程度の間柄の3家族が妙な因縁から関係を深めていく物語です。
問題児を抱えた両親両方が裁判官を務めている家庭。幼い一人娘を抱える3人家族。更に建設関係の仕事の為、長期出張に出ている為ほとんど家に帰ってこない夫を待つ妻、ひとりで出産はしたものの、生まれた子どもの顔をもしばらく見る事が出来ない夫。彼女は陣痛が始まり産院に向かおうとタクシー待ちをしていました。若妻は道路脇で事故を目撃しましたが、暗闇だった為状況をはっきり把握出来ずにいました。
映画の冒頭、裁判官の両親の息子(加害者)は酒酔い運転で、自宅付近で見知らぬ女性を轢いてしまい死亡させるというショッキングな事故が発生します。そして、車はひとり娘を抱える1階に住む家族の父親の仕事場に突っ込み崩壊させて止まります。
夜、余りに突然の出来事だった為、一体全体何事が発生したかも定かでありませんでした。しかしながら、徐々に事故の概要が明らかになって行きます。
題名は『三つの鍵』とありますが、アパートに登場する家族は更に老夫婦の一家族が加わり4家族となります。家をめちゃめちゃにされた子連れ夫婦は、朝まで幼い娘をこの老夫婦の家で預かって貰おうとしました。ところが、この夫婦の夫は痴呆症の為、物忘れが激しく、娘と一緒に散歩に外出したものの、帰る道を忘れて、夜遅くまで、娘がよく行く公園で寝ころんでいるところを父親に発見されます。
父親は老人が娘に「性的な嫌がらせ」をしたのではないかという疑念が浮かびますが、娘は何が起こったのか詳しく語る事無く口を閉ざし続けます。また、老人は痴呆症の為、記憶を辿っても何も覚えていないと述べるだけでした。
物語の進展は5年後、又さらに5年後とどんどん移り変わります。4家族が絡み合い変容するほぼ10年間にわたる様相(人間模様)を2時間の映画としてまとめ上げる手法にさすがに舌を巻きました。しかし、1家族だけを描いても1本の映画が取れそうなのに4家族を見事に絡み合わせる試みは優れた脚本に負うところも大きいと思います。
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