なぜ夏物語を読んだのか?
全国書店員が選んだ一番売りたい本「本屋大賞」にノミネートされた本10冊の内の一冊であったことからまず手を取ったてみました。(最終結果は第七位だったそうです。わたしは第一位かと思いました)渋めな題名からは想像も出来ない深い問題を扱っている書、しかしながら、著者の性格なのか関西弁の軽快な会話が醸し出す雰囲気なのか深刻な話にならず、読後感は爽やかさを感じました!
本書の内容を説明するHPには『パートナーなしの妊娠、出産を目指す夏子のまえに現れた、
精子提供で生まれ「父の顔」を知らない逢沢潤――生命の意味をめぐる真摯な問いを、切ない詩情と
泣き笑いに満ちた極上の筆致で描く、21世紀の世界文学!世界十数ヵ国で翻訳決定!』と解説されていましたが、これも興味を引くには十分な内容でした。「パートナー無しの妊娠・出産を目指す」と、これだけ読んでも何が何だかわからと言うのが正直な第一印象でしたが、本書を読み進めていく内、このような考え方を持つ女性の存在とその考え方がそれとなく理解出来る様にはなりました。
夏物語を読んだあらすじ・感想
大阪の下町に生まれ育ち、親姉妹に囲まれながら、貧しいながらそれなりに一生懸命に生きてきた。東京で小説家として一人暮らしの38歳の夏子には「自分の子どもに会いたい」という願いが芽生えつつあった。38歳で現在パートナーは無いのだが、妊娠・出産出来る”能力”があるうちに、自分の子供を生んでみたいという人工授精による出産願望は日に日に高まっていった。セックス無しで、第三者の精子提供を受けて出産を試みる情報を収集している内に、精子提供で生まれ、本当の父を捜す逢沢潤との出会いがあったり、彼の恋人であり、且つ同じく精子提供で生まれ、自分の育ての父親に性的虐待を受けた過去を持つ「子どもを生む人はさ、みんなほんとに自分のことしか考えないの」、「この世界は、生まれてくるのに値す今日るのだろうか?だから子どもを不幸にしたくなかったら生まないことだ」と言い張る善百合子など様々な強烈の個性を持つ登場人物と次々に巡りあっていく。
著者の描写があまりにもあっけらかんとした赤裸々な性の描写があり、面食らう場面が度々あった。最近の男女間の描写では当たり前なのか、あるいは本作品のテーマ、結婚を介さず(配偶者以外の第三者の)子供を産む事を小説に描こうとする為にはやはり必要不可欠な描写なのかは良く分かりませんが、とにかく男女間のセックスに関わる赤裸々なまっすぐな表現になれるまで少々時間が掛かりました。
また、セックスはしたくないが子供は生んでみたいという心理も自分には良く理解出来ませんでした。一般的には男女間で愛し合えば自然に子供が欲しくなる、或は自然に子供は出来てしまうものではないかと単純に考えていました。それを善百合子の様に親の勝手で幸せになるか不幸になるか分かりもしない子供を産むのは非常識で子供は産んではならないと断言するのは極論であり、私としても初めて聞く意見ですが、到底100%受け入れられない意見です。
人工授精で妊娠出産は医学の進歩で実現することが出来たと思いますが、全く見ず知らずの赤の他人の精子の提供を受け受精し、出産するという領域は人類が超えてはならない”一線”を超えているような気がします。しかしながら、この小説の主人公夏子は最後に子供を無事出産しているので、正直たいへん驚きました。
子供を産んだことがある、或はこれから産むかもしれない女性とわたしの様な男性ではおそらく考え得る領域がまったく違う様な気がします。所詮自分で子供は絶対産めないので、この問題は深く考えたことも無いしこれからあまり考えることも無い様な気がしています。無責任ながらわたしの能力の限界を感じます。
また、この問題を女性の立場になり考えることも出来ないかも知れません。但し、こういう問題もあり、この様な問題で悩んでいる人もいる事、このような問題をどうやって解決しているかという事は本書夏物語の御蔭で理解することが出来ました。
軽快な大阪弁、決して裕福な暮らしではないけれど一家で肩を寄せ合い一生懸命生きてきた生活振りは微笑ましいもので、人生を生き抜く強さというものが感じられました。本編の繊細なテーマについてもかなりの深掘りをしており、非常に好感の持てる小説だと思いました。川上未映子氏の本は本書が初めてでした。08年「乳と卵」で芥川賞を受賞されているという事を知り、その筆力の確かさで納得しました。他著書にも興味が出ましたので、是非読んでみたいと思います。
世間の客観的意見はどんなものがあるのか
女性に取って子供を産む事とはどういう事かいうとをことを考えさせられる本という意見が多いようです。
『40歳を前にした主人公が悩み抜いて答えを出すまでの物語。葛藤の合間に様々な女性の出産に対する価値観や事情が描かれている。男性はほとんど蚊帳の外といってもいい… 女にとって、子どもを産むというのはどういうことか、にとことん焦点を絞っている。「女にとって大事なことを、男とわかりあうことはぜったいにできない」は友人の言葉だが、至言でもあり諦めのようでもある。 じりじり灼けるような暑さと流れる汗が印象的な作品…』
『後半の夏子が子供を産みたいって思うところからガーッと読めた。 善さんの自分の子供が絶対に苦しまない方法は産まないことという言葉にガツンときた。 子供は気づいたらこの世にいて生きていかなくてはいけないという当たり前の前提は実は親のエゴでそれでも夏子が選んだ選択は私は良かったと思う…』
夏物語と同じ作者のおすすめの本はあるのか?
1976年大阪府生まれ。2007年『わたくし率 イン 歯ー、または世界』『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』で早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞、08年『乳と卵』で芥川賞、09年詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で中原中也賞、10年『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞、13年詩集『水瓶』で高見順賞、『愛の夢とか』で谷崎潤一郎賞、16年『マリーの愛の証明』でGRANTA Best of Young Japanese Novelists、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞を受賞他。
残念ながら、夏物語以外まだ読んでいません…『乳と卵』芥川賞受賞作読んでみようかと思います。
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