映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』で双子の牧師役を演じたポール・ダノの初監督作品と聞いて正直驚いた。役者としても素晴らしい演技でひと際目立つ存在感を出しているが、今回メガホンを握る多彩振り、また作品の完成度の高さに度肝を抜かれた。また、欧米では主演級の俳優が監督をやったり、監督から俳優になったりする人がかなり多いのにも驚く。それも数え上げたら本当にキリがない。
今回の映画は私の感想としてはストーリーとしては地味ながらも、夫婦とその子供の心の内面の不安・葛藤が非常に良く描かれている作品になっていると思う。
なお、同じ様に米国西部を舞台にした最近見た映画はこちら
ゼア・ウィル・ビー・ブラッド 映画 米石油ラッシュ時代の悲劇のドラマ
ウインド・リバー ワイオミング保留区を舞台にしたサスペンス映画 レビュー
ワイルドライフ のあらすじと概要
あらすじ
物語の舞台は、1960年代、カナダとの国境に近いモンタナ州の田舎町。14歳のジョー（エド・オクセンボウルド）は、ゴルフ場で働く父ジェリー（ジェイク・ギレンホーフ）と，家庭を守る母ジャネット（キャリー・マリガン）の１人息子だ。新天地での生活がようやく軌道に乗り、睦まじい夫婦の姿を息子が安堵の面持ちで眺めていたのもつかの間、ジェリーが職場であるゴルフ場を突然解雇されてしまう。
ジェリーは昔の職に戻ることを提案されるが、彼はプライドからそれを拒否、近くの山であるグレートフォールズで起こっている火災を鎮静させるための職に就くことに決める。その職は危険で低賃金、長い間家を空けなければならず、ジャネットが止めるのも聞かずジェリー一人で決断しては家を後にする。
残されたジャネットとジョーは働くことを余儀なくされ、母はスイミングプールのコーチ、息子は写真館の助手の職を見つけるが、生活は安定しない
そんなある日ジョーが学校から帰宅すると、家に母と太った老年の男性がいました。彼の名前はミラー、会社を営む地元の名士で名前の知られた裕福な人物。
ジョーはミラー氏と母の間に気配を感じ、彼を警戒します。
ジャネットは以前より派手な服を着て着飾るようになり、ジョーはそんな母の姿を複雑な気持ちで見守ります。
その後どのような発展があり、やがて父が帰ってからどのような展開があるかは見てのお楽しみ！
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』（ ゼア・ウィル・ビー・ブラッド 映画 米石油ラッシュ時代の悲劇のドラマ） (2007)で英国アカデミー賞助演男優賞にノミネート、『プリズナーズ』(2013)『それでも夜は明ける』(2013)など、様々な作品でベテラン俳優たちを圧倒するほどの演技を披露している俳優ポール・ダノが初監督となる記念すべき作品。更に注目されるのが彼と共に今回脚本を手がけたのは『ルビー・スパークス』(2012)で共演、ダノの恋人であり2018年に子供を出産した女優、脚本家のゾーイ・カザン。
原作はピューリッツァ賞作家リチャード・フォードの同名小説『WILD・LIFE』(1990）
ワイルドライフ ネタバレ感想
ストーリーとテーマについて
自然で発生した火を鎮静させる仕事をしていたジェリーが、自分の手で小さくも火を起こしてしまうという皮肉な展開になるところにストーリーとして面白味があると思います。でも一見冷静沈着に見えたジェリーの感情を爆発させて放火してしまう行動は理解は出来るものの、余りにもWILDという気がした。
『“Wildlife”＝“野生動物”のように荒々しい感情を胸に秘めていた彼らが事件を乗り越え、“個人同士”として再び一堂に会し、写真館で一つのフレームに同じ方向を向いて収まるラストショット』で最終的には大団円になりますが、ストーリーとして、ジェリーひとりの身勝手により、家族を残し低賃金である山火事の消火活動へ出掛けてしまうところがまったく理解出来ませんでした。
一方、残されたまだ若く美しく、学生時代はミスキャンパスなどに選ばれる程の美貌の持ち主が、ど田舎の小さな町でひとり残されているのも気の毒な気はします。しかしながらのその浮気の相手が地元名士とは言え、太目な老人ではなおさら可哀想な気がしました。どう考えても身勝手な男ではあるものの、ちゃんと家族のもとに帰ってきたハンサムなジェリーに分があるような気がします。
そんな父と母の間に挟まれている14歳のジョーは本当に気の毒過ぎます。思春期の多感な時期に父の身勝手な行動により、家族崩壊の危機を目の当たりにして、その衝撃的な浮気、さらには放火事件の目撃者にされてしまっている…
キャラクターとキャストについて
監督・脚本：ポール・ダノ１０歳の頃スカウトされ、17歳の時に「L.I.E（原題）」（01）で映画デビューする。メインキャストを務めたロードムービー「リトル・ミス・サンシャイン」（06）は、米国でロングランヒットを記録。ポール・トーマス・アンダーソン監督作「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」（07）では牧師役で強烈な印象を残し、その後アカデミー作品賞受賞作「それでも夜は明ける」（13）や、ドゥニ・ビルヌーブ監督のスリラー「プリズナーズ」（13）に出演。「ラブ＆マーシー 終わらないメロディー」（15）ではビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンの若き日を演じた。
出演 ・キャリー・マリガン：『17歳の肖像』(2009)や『ドライヴ』(2011)でおなじみ、“オードリー・ ヘップバーンの再来”とも言われる可憐な魅力を放つ
・ジェイク・ギレンホーフ：『複製された男』(2013)『ナイトクローラー』(2014)『ノクターナル・アニマルズ』(2016)などビッグ・バジェットからインディペンデント映画まで数々の秀作に出演する
・エド・オクセンボウルド：
まとめ
ポール・ダノの初監督作品としては完成度が非常に高く出来過ぎではないか。俳優がいきなりメガホンを握りここまでの作品が出来てしまうところが本当にすごい。しっかりした脚本の力、キャストの演技力もさることながら、それを取りまとめ一本の作品に仕上げているところの評価は９９点。
コメント