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おすすめ新作映画・感想『イニシェリン島の精霊』(2022/マーティン・マクドナー監督)‣アイルランド内戦の時代背景から、二人の男の諍いを読み解く。

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『イニシェリン島の精霊』のあらすじ概要

「スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー監督が、アイルランド内戦を時代背景として、人の死を予告するというアイルランドの精霊・バンシーをモチーフに描いた人間ドラマ。ゴールデングローブ賞作品賞を受賞するなど世界各国でとても高い評価を得ている作品です。

1923年、アイルランドの封鎖的で小さな孤島イニシェリン島。(イニシェリン島はアイルランド西岸沖に浮かぶ架空の離島です。アイルランド島の西に広がるアラン諸島の1つという設定)住民全員が顔見知りのこの島で暮らすパードリックは、長年の飲み仲間で友人・音楽家コルムから突然絶縁を言い渡されてしまいます。理由もわからないまま、妹や風変わりな隣人の力を借りて事態を解決しようとしますが、コルムは頑なに彼を拒絶します。妹シボーンが聞き出した理由はパードリックは「退屈な存在」で、大事な余生を彼と過ごして無駄にせず、音楽や作曲に費やしたいと考えていた様です。ついには、これ以上関わろうとするなら自分の指を切り落とすと爆弾宣言をされてしまいます。

「ヒットマンズ・レクイエム」でもマクドナー監督と組んだ常連コリン・ファレルとブレンダン・グリーソンが主人公パードリックと友人コルムをそれぞれ演じています。

2022年製作/114分/イギリス
原題:The Banshees of Inisherin

『イニシェリン島の精霊』のスタッフとキャストについて

マーティン・マクドナー監督・脚本・製作:アイルランド人の両親のもと、ロンドンのキャンバーウェルで生まれる。2017年には長編映画『スリー・ビルボード』を監督した。演劇と映画の両方で成功をおさめたクリエイター、劇作家としてローレンス・オリヴィエ賞を、映画作家としてはアカデミー賞、英国アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、ヴェネツィア国際映画祭での受賞経験を持ちます。ブラックコメディの名手と考えられています。

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コリン・ファレル(パードリック):楽観的で単純な性格の男、島内ではコルム以外に話し相手がいない不器用な人物、コルムから突然の絶好宣言を受けてしまうものの、彼との親交を諦め切れずにしつこく付きまとう…/本作品で、ベネチア国際映画祭のポルピ杯(最優秀男優賞)を受賞し、自身初となるアカデミー主演男優賞のノミネートも果たしています。

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ブレンダン・グリーソン(コルム):アイルランド・ダブリン出身。内向的で芸術家気質の男。映画の中では”宣言”通り自らの指を切り落とすという自傷行為も辞さないやや偏屈な意思の強さを持つ初老の男を演じています。

アイルランドから自分の土地を手に入れるという夢を持ち、アメリカに来た青年の生き様を描く『遥かなる大地へ』トム・クルーズ、ニコール・キッドマン夫婦(当時)共演!

ケリー・コンドン(パードリックの妹シボーン):アイルランド・ダブリン出身。本好きで聡明な女性。兄を愛している一方で、コルムが一人になりたい理由も理解している唯一の人物。兄を一人残し島を出て去って行きます/マクドナー監督作品『スリービルボード』にも出演しています。

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パリー・コーガン(隣人ドミニク):クリストファー・ノーラン監督の戦争大作「ダンケルク」(17)でイギリス兵救出に向かう民間船の乗組員ジョージ役を演じて国際的に脚光を浴び、続くヨルゴス・ランティモス監督の不条理劇「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」(17)では主人公一家を翻ろうする少年マーティンを怪演しました。とても存在感のある俳優。

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『イニシェリン島の精霊』のネタバレ感想・見どころ

ネタバレ有り・要注意!

イ二シェリン島はアイルランド島の西に広がるアラン諸島の一つの島という設定ですが、架空の島の名前です。しかし、本作全編に渡り背景となっている島の風景は見た事も無い驚く様な大絶景が広がります。わたし個人的には本作の魅力の90%はこの島の風景にあると感じました。特徴的なのが石垣に囲まれた牧草地と畑のある風景です。家からパブまで毎日バードリックもコルムもシボーンも石垣の有る道を歩いて通うシーンを何度も目にする事になります。

マーティン・マクドナー監督は映像に出て来る”パブ”や”住居”にもかなりの拘りを持ち、1920年代の本物に近い建物として再現されている様です(とてつもない絶景の中に建てられ、かなり居心地の良さそうなパブ)

ストーリーの発端は極めて”どうでもいいような事”まるで小さな子供の喧嘩ばなしの様なものとして始まります。長年仲の良かった男コルムが、友達パードリックに向かい「お前とは今日から”絶交”だ」と一方的に宣言します。そう言われたお人好しのパードリックは、その言葉がまったく信じられず何とか機嫌を直してもらおうと必死になります。しかし、全く埒が明きません。パードリックの妹シボーンは絶交した理由を彼に糺し「お前の兄は退屈な存在なので、彼と付き合って残りの人生を無駄にしたくない」ときっぱりとコルムの真意を聞き出していました!

孤島という狭い世界、地域内の誰もが顔見知りという小さなコミュニティーの中での出来事です。瞬時に何が起きたのか、街中の人間が知る事になったと思います。恐らく日本の世界では、「お前は退屈な奴だから、今日から絶交する」という宣言は決してあり得ないとことだ思います。ところが、アイルランド及び欧米世界ではこの映画が非常に高く評価され、アカデミー賞でも8部門9ノミネートされているという事は、「現実のストーリーとしてあり得る話だ」と共鳴したのだと思います。

確かに、絶好宣言を食らったコリン・ファレルの、眉毛を八の字に歪ませ、「困ったチャン」振りはたいへんに共感を呼びました。コルム役のブレンダン・グリーソンの恐るべき意思の強さ「5本の指を切り落とす愚挙を潔くやってのけます…」、唯一常識的な判断が出来る聡明な妹シボーンの演技力の素晴らしさ、また、村一番のダメ男ドミニクの怪しい存在感、それらの演技力を引き出す、マーティン・マクドナー監督の脅威的な演出の力には驚かされました。

しかし、孤島内のふたりの男の『絶好宣言』を巡る諍いに関しては、当時のアイルランド内戦を時代背景として、その常軌を逸した争いの様子が二人の男の対立に反映されている様なんですが…すんなり納得する事が出来ず、最初は本当に困りました。

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